第10回 FC東京の現状と変革の時(2000年5月15日)

                                  M.Sunbata

 FC東京のサッカーを見ていると、マンチェスター・ユナイテッド(以後マンチェスタ
ーUと表記)を思い浮かべる。
 その理由は、それぞれのチームのフォーメーション図を見てもらえれば、よりそのこと
を理解して頂けるだろう。

    マンチェスターU             FC東京
    ヨーク コール            ツゥット アマラオ
 ギグス       ベッカム        小林          佐藤
    スコールズ キーン             小池 浅利
ネビル シルベストル スタム アーウィン   藤山 小峯 サンドロ 内藤

 両チームの共通点は、中盤にパサータイプのゲームメーカーを持たないことだ。2列目
の選手が大きく外に開くスタイルを取っている。
 FWに関して言えば、マンチェスターUのコール、ヨークは足元にもハイボールにも強
く、自分で前に持ち込む力もあり、またポストになってギグスやベッカムにボールを散ら
し、彼らのアーリークロスに素早く反応することにも優れた選手である。

 その点では、FC東京のアマラオ、ツゥットは、マンチェスターUのFWにタイプが似
ている。
 2列目の選手は、小林がギグスのようにドリブルで縦に抜け(ギグスは縦に抜いた後に
内に切れ込むが)、佐藤(由)はベッカムのようにカーブを懸けないが、前線にセンタリ
ングを入れると、攻撃の形が似通っている。


 マンチェスターUの攻撃は、FC東京よりもシステマティックで、質の上でも相当高い。
例えるならば、FC東京が街で手当り次第に声を掛けるナンパ男なら、マンチェスターU
は狙った獲物は必ず陥落させる超一流のジゴロくらいの差がある。それにFC東京が速攻
型であるのに対し、マンチェスターUは遅攻も出来るという違いがある。
 ただFC東京の快進撃を支えているのは、言い方は悪いが、この「手当り次第に声を掛
ける」というスタイルを諦めずに仕続ける強さがあると言うことだ。

 対戦相手は一様に、「FC東京のやってくることは解っている」と口にする。確かにツ
ートップに素早くボールを当てて、前に前にと行く攻撃が主で、攻撃のバリエーションは
少ない。
 しかし攻撃のスタイルが相手に読まれていようと、前に行こうとする意識を強く持ち、
それを諦めることなくやり続けることは、相手DFにとって脅威なのは間違いないし、プ
レッシャーを懸けられたDFが、試合中のどこかで一瞬、破綻を来すことがあるのは紛れ
もない。
 中途半端ないくつもの攻撃の形を持つよりも、完成された一つの攻撃の形という武器を
持つ方が、確実に相手を仕留めることが出来る。

 FC東京の攻撃で殊に印象的だったのは、ガンバ戦で見せた、GK→ツゥット→アマラ
オと経由してのゴール。シンプルな攻めだが、あれこそダイレクトプレーのお手本であり、
ゴールの一つの理想型だと思う。


 ところで、マンチェスターUとの話に戻すが、FC東京にはマンチェスターUのスタム
のように屈強なDFがいない割りには、守備陣は頑張っていると思う。それは前線の選手
も含めた全員の、守備に対する気持ちの高さがそれを支えている。

 ただマンチェスターUと明らかに異なる点は、DHの役割だと思う。FC東京の小池、
浅利はほとんどの時間、守備に忙殺されている。しかし、マンチェスターUのスコールズ、
キーンの両選手は、FWにつなげるパスやサイドチェンジをする起点となり、FWの動き
により出来るスペースに果敢に飛び出して攻撃に参加し、そしてピンチにはいち速く本来
のポジションに戻って、身を挺して相手の攻撃の芽を摘む。その運動量の多さと対人プレ
ーの強さは半端ではない。それにゴールもよく挙げている。

 トヨタ杯で、ギグスのセンタリングにキーンがフォアで合わせたゴールだが、あれはた
またまキーンがあそこに詰めていたわけではない。プレミアリーグを見ていれば、あれが
マンチェスターUの攻撃パターンの一つだということがよく解る。
 それにスコールズのミドルシュートにしても、キック力があって低い弾道を描く、素晴
しいものだ。

 FC東京にも、彼らのような選手が加われば、より攻撃的なスタイルのチームになるだ
ろうが、そうそう見付かる選手ではないのが残念だ。


 FC東京は、ファーストステージ、現在3位というところに位置している。あのジュビ
ロでさえ、昇格後のファーストステージは8位で終了している。それから考えても、昇格
組としては申し分のない出来だと言える。
 しかし正直言って、今のままでは優勝争いに絡む程度の、いいとこ止りの成績しか残す
ことが出来ないだろうとも考えている。


 そういう意味では、95・96年のレッズを思い出す。あの頃のレッズは、中盤にバイン
というゲームメーカーがいたものの、速攻型ということではFC東京に近いものがあった。
当時レッズは、マリノスのように守備に安定感はあるものの全体的に攻めの姿勢の強いチ
ームには強かったが、中盤を制圧するジュビロやアントラーズのようなタイプや、引いて
ディフェンスを固めてしまうサンフレッチェやセレッソにはとても脆い面を持っていた。

 今では様変りしてしまったチームもあるが、FC東京が苦戦したり負けているチームは、
ジュビロやエスパルスのように中盤を圧倒的に支配するタイプであり、サンフレッチェの
ように固い守備をベースにしたチームであるように思う。その点が、レッズと奇妙にも合
致している。

 95・96年とレッズは優勝争いに加わりながらも、それ以上のことは果たせなかった。
その反省から、カウンターサッカーから脱皮をしようと、中盤でつなげるサッカーを模索
し、更に攻撃のオプションを増やす為に、大型のFWを補強し、サイドを崩してそのFW
の頭に合わせるスタイルに変わっていこうとした。

 その考え自体は悪いとは思わないが、そうしようとしたことが、逆にスピード感溢れる
レッズらしい攻撃を見失うことになり、新たな攻撃のスタイルも自分達のものに出来ない
まま、悪循環に陥ってJ2落ちの憂き目を見ることになった。


 多分、近い将来、FC東京も優勝する為には、変革の時を迎えなければいけないだろう。
今のスタイルを貫いて、マンチェスターUのように進化していくのか、それとも中央にゲ
ームメーカーを置き、パスサッカー主体のチームに変貌を遂げるのか。そしてその変革の
波に乗れるのか、はたまた沈んでしまうのか。

 今後のFC東京に興味は尽きない。