第16回 自分達のリズムを奏でること〜レッズVSトリニータ〜(2000年8月20日)

                                  M.Sunabata

 「一年でJ1復帰」という命題を背負ったレッズ。「今年こそはJ1昇格」と去年の雪
辱に燃えるトリニータ。2位のレッズが勝ち星が伸びない中、3位のトリニータは勝ち点
差をわずか3にまで着実に追走してきた。両チームにとって、この試合を勝利することは
勝ち点3を手するだけでなく、J1に行くという目標をかなえる為、越えなくてはならな
い大きなハードルをクリアーすることにも繋がる重要な試合。

 レッズサポーターはこの一戦に賭ける意気込みを赤と黒の大旗で表現する一方、トリニ
ータのサポーターもアウエイ席を満員にしてトリニータ選手を後押しする。しかしヒート
アップするスタジアムとは反対に、両チームの選手は妙に落ち着いた雰囲気を漂わせてい
たが…


 試合は開始早々いきなり動く。1分、レッズはゴール正面、絶好の位置のFKを得る。
小野の蹴ったボールは、立ちはだかる5枚の青い壁をいとも簡単に越え、ゴールに吸い込
まれた。

 ところがレッズは先制したものの、選手は覚醒していなかった。ゲームはモチベーショ
ンの高いトリニータのペースで進む。4分、スローインのボールを加賀見が落とした所に、
吉田が飛び込む。GKの田北がキャッチしたが、前に飛び出すのを一瞬躊躇した為、危や
のシーンであった。
 その後、トリニータもFKを得る。フォアサイドにいたシジクレイが、レッズのDFの
マークの甘さを突き、ヘッドでゴールを狙う。またもGK田北がファンブルし、ボールを
背後に落とすがどうにかゴールを割らせなかった。更に10分、FKをアントラジーニャ
が直接狙う。壁を抜けたボールは他の選手に当たり変化したが、今度は田北は素早い反応
でゴールを死守する。
 マイボールにすると早くボールを動かし、次々スペースにフリーランニングするトリニ
ータの選手。守りに関してもチームのリズムを崩さずにレッズの長所をうまく消している。
対照的にレッズの選手は受けに回るだけで、動き出しがとても鈍い。攻撃もちぐはぐした
ままであった。大分のペース。しかしサッカーとはボールを支配するゲームではなく、ゴ
ールを奪うゲームであることを忘れてはいけない。皮肉にもレッズ3本目のシュートがゴ
ールに吸い込まれる。

 25分、小野がFKをDFの背後に落とす。それを受けた岡野はDFとうまく体を入れ
換えて右足アウト(側面)で技ありのゴール。早くも2点差、駒場が歓喜で揺れる。


 だが、点差こそ開いたとは言え、試合のペースは相変わらずトリニータ。レッズはまだ
ぴりっとしない。30分、スローインのボールを受けた加賀見がドリブルで突破しセンタ
リング。そのボールをアントラジーニャの頭に綺麗に合わされゴールされる。

 前半はレッズ1点リードで終えたとはいえ、不満が残る内容だった。小野の頭を越える
ボールが多く、自分達のリズムを作れない上、サイドバックもトリニータの石崎監督の術
中にはまり、なかなか攻撃参加出来ない。このままトリニータが試合の流れを握ったまま
ゲームが進行しそうであった。


 だがレッズは後半、別チームでも見ているように積極的に動く。小野がボールタッチす
る回数が増え、チームにリズムを与え、それに呼応するように、前半消えていた永井の動
きが良くなったのだ。またポストのクビツァに入れるボールが浮き球のロングボールばか
りではなく、足元にも入れることにより、クビツァの特性を生かせるようになった。岡野
は守備に攻撃にと走り回ることで自分のリズムを取り戻す。自分の役割を誰もが忠実にこ
なし、奏でるリズムがシンクロする。レッズがチームとなった瞬間であった。

 52分、小野と石井のワンツーから、小野がクビツァにスルー。トリニータDFはどう
にかコーナーに逃れる。56分、岡野からパスを受けた小野がドリブルで掻き回し、セン
タリング。永井が中央で倒れ込みながらヘディングするもクロスバーを越える。
 そして62分、クビツァのトリニータディフェンスラインの後ろに落としたボールに対
し、永井が走り込んでGK前川と1対1の場面を作り出す。永井は前川の動きを冷静に見
ながら右に流してゴールを決めた。

 トリニータは前半とは打って変わったレッズに気圧され、反撃の糸を掴めないまま、3
点目を奪われ、意気消沈してしまった。特にレッズの河合がポジションを少し下げ、石井
とダブルボランンチを組むような形を取り、攻撃の起点となる加賀見を押さえられてしま
ったことにも原因があった。

 レッズは河合がポジションを後ろに取ったことにより、石井の攻撃参加が可能になる。
そしてその石井から4点目が生まれる。83分、石井はトリニータディフェンスの裏を取
ろうとする小野の動きを察知し、ロングパスを送る。小野は角度がない所からシュート。
GK前川はそれを弾くも、最後はゴール前に詰めていた永井が決めた。


 試合が終わってみれば4ー1とレッズの完勝であった。しかしここ何試合か続く前半眠
ったような状態になってしまう癖は直し切れていない。しかもチームを覚醒させリズムを
取り戻させた小野が、オリンピックの為にまたチームを離れなければならない。小野不在
の時に誰がチームのリズムを作っていくかが重要な課題として残っている。

 対するトリニータは自分達のリズムを守り切れなかったことに敗因がある。相手のリズ
ムがいかに変わろうと、それに巻き込まれることなく自分の旋律をキープ出来るかが大切
となってくるだろう。レッズはまだ完全復活したわけではない。このままトリニータのリ
ズムを見失うことなく、戦い続けることが出来れば、まだまだチャンスはあるはずだ。