第17回     「宣言」     (2000年9月9日)

                                M.Sunabata

 オリンピック代表が、長居でクウェートを相手に華々しい大勝劇を繰り広げている同じ
時間、小野は駒場でホーリホックに苦戦を強いられていた。

 ほんの一週間前のことだ。小野がオリンピック代表のリストに、自分の名前がないこと
を知ったのは…小野にとってオリンピックでプレーすることは、サッカー選手としての一
つの目標であり、海外のクラブに移籍するという将来の夢に通じるゲートでもあった。
 オリンピック代表落選の当日、モンティディオ戦のフィールド上の小野は、平静を装っ
てはいたものの、精彩を欠いたプレーが沈み込んだ心を物語っていた。

 昨年の大怪我からゲームに復帰した頃、小野は彼らしさを失っていた。味方からパスが
出るのを待ち、自らパスを引き出そうとしない。また2列目から前線に飛び出すこともな
く、オフ・ザ・ボールの動きが極端に不足していた。調子を取り戻すにはシンプルなプレ
ーを心掛けるべきなのだが、逆にトリッキーなプレーに走り、味方のリズムを崩してしま
うことも少なくなかった。
 殊にJ2では、他チームが対レッズということで引いて守りを固めることが多い為、小
野が自ら動いてパスコースを作る、FWが厳しいマークを受けた時には積極的に前線のス
ペースを狙うことが不可欠だった。小野はこの課題を克服することが急務だった。だが復
調の兆しを見せる度に怪我が相次ぎ、小野は迷宮の出口を見つけられずにいた。
 ところがUAEとの親善試合に出場した頃から、小野は抱えていた課題を乗り越え始め
ているように見えた。だからこそサッカー選手として大成する為には、単なる通過点(あ
えてそう言いたい)に過ぎないオリンピックに出場出来ないという小さな失望で、今、変
貌しつつある自分自身への大きな喜びを見失って欲しくなかった。

 ホーリホック戦での小野は、ショックの色を感じさせない。
 立ち上がりから、前線に飛び込む動きで闘志を表現した。広範囲に動くことで味方から
パスを呼び込み、チームの攻撃のリズムを作り出す。そして相手の逆襲には、相手選手を
猛追し攻撃を食い止める。そして味方を鼓舞する声をあげる。
 レッズが3枚の交代カードを使った後、小野は右足の痛みから足を引き摺る場面も見ら
れた。しかし最後まで戦う姿勢は変わらなかった。

 かって、オリンピック出場後、自分を見失い成長を止めた選手がいる。一方、才能豊か
でも、夢のW杯に出場が叶わない選手もいる。プレーヤーとして光を放ち続けるのは、そ
の選手次第なのだ。
 「留まっているわけにはいかない」。シーズン一番のパフォーマンスで、小野は前を見
据えていることを、駒場に集った人々に宣言した。