第22回 ブーイングを浴びる憎いヤツ (2001年3月19日)

                      M.Sunabata

  試合開始に先立ち、スターティングメンバーの紹介が行われる。名前のコールを掻き消
 す対戦相手のサポーターからのブーイングは、敵の選手として名誉なことである。ブーイ
 ングの音量が大きければ大きい程、その実力が認められている証拠に他ならない。


  韓国代表の崔龍珠(チェ・ヨンス)を、私は「憎っくきヤツ」としてとても好きであっ
 た。ことあるごとに日本人の神経を逆なでする言動をした。過去に日本ベンチに向ってボ
 ールを蹴り込んだこともあった。フランスW杯最終予選で顔を逢わせることになった時は、
 「日本など恐くない」という彼の発言も聞いた。

  鼻っ柱が強く、それがプレーに反映するように、強引な突破する姿。ゴールを決めた後
 の「どうだ」と言わんばかりの高慢な顔つき。テクニシャンではないが、力で相手をねじ
 伏せる所に、崔龍珠の魅力を感じていた。傲慢なヤツだと思いつつも、崔龍珠のゴールが
 韓国をフランス へと着実に導いることで、サッカーファンとしての私は彼を認めていた。

  フランスW杯の最終予選での崔龍珠はまさに日本人にとってヒールだった。国立での韓
 国戦では一際大きなブーイングが彼に向けられた。蚕室(チャムシル)にて秋田が崔龍珠
 の鼻を骨折させ時、戦意喪失した様子の崔龍珠に、密かに「秋田、よくぞやった」と思っ
 たものだ。


  フランスW杯以降、韓国代表から外れていた。怪我や体調不良もあったが、復調の兆し
 を見せても代表からお呼びがかからなかった。どうも許丁茂(ホ・ジョンム)監督との関
 係がよくなかったようだ。

  監督がオランダ人のヒディングに交代が決まった後の、昨年12月に行われた日韓戦で、
 崔龍珠は久し振りに代表復帰した。崔龍珠のプレーは変わっていた。強引さが陰を潜め、
 ツートップを組んだ安貞桓の動くスペースを作ったり、アシスト役に撤して、デコイスト
 ライカーとなっていた。

  Kリーグの安養(アニャン)LGでは、得点はもちろんのこと、アシストも多くなり、
 プレーの幅が広がったとは聞いていた。安養のサッカーは2・3列目の選手が前線にアタ
 ックを仕掛ける戦術を取っている。チーム事情を考慮して崔龍珠はプレーを変化させたと
 同時に、再度、代表に選ばれるにはプレースタイルの転換が必要だと考えていたのかもし
 れない。

  プレースタイルの変更は悪いことではないのだが、あの荒々しいプレーを期待していた
 私としては、日韓戦でのこじんまりとしたプレーに終始する崔龍珠に憎さが半減し、「崔
 龍珠にあって崔龍珠にあらず」の淋しい印象を受けた。


  今年になって、ジェフに崔龍珠が移籍してきた。多くの有望な選手が移籍してしまった
 ジェフにとって、崔龍珠にはゴールを量産することで、若手主体のチームを引っ張る原動
 力になってもらいたいとの期待があるだろう。崔龍珠もその辺のことを理解していて、積
 極的にゴールを狙っていく心づもりのようだ。怪我で開幕には間に合わなかったが、崔龍
 珠の活躍はジェフの浮沈に直結するはずだ。活躍を証明する意味でも…

  対戦相手のサポーターから強烈なグーイングで迎えられる「憎っくき」崔龍珠であって
 欲しい。