第23回 糸を引くようなパスをくれ(2001年4月14日)

                               M.Sunabata

  「FWではなく、ストライカーだ」。エースとしての自負心が福田にこう語らせた。

 J2で挙げた得点はわずかに2。レッズのJ1復帰に尽力したとは言えない成績である。
だからこそ福田は、自分をも含めたレッズを取り巻く人々の期待に答えたいという並々な
らぬ思いを、「単なるFW」ではなく「ストライカー=点取り屋」という言葉に込めたの
だろう。そして福田はゴールを決める為に、「糸を引くようなパス」を切望する。

 福田の言う「糸を引くようなパス」…それはゴールに直結するスルーパスのことである。

 DFの間合いを計り、相手がどうにもカット出来ないコースに地を這うように滑る。し
かしDFの裏を取った福田の足元には糸でも伸びているように正確にボールがフィットし、
なおかつ福田の動きを止めることなくスムーズにフィニッシュに移ることの出来るパス。

 かっての同僚、ウーベ・バインの得意技であった。


 99年シーズン前に、ある雑誌のインタビューで福田は小野のことを「小野が入って来た
時、ウーベみたいな選手なのかなっと思った。でも違うタイプだよね」こんな感じの話を
していた。

 相手の裏を狙うパスを出す選手とは、リスクを平気で犯す気構えがいる。試合中、ウー
ベ・バインはスルーパスに何度もトライする。それは相手を試す意味もあったと思う。相
手DFの網にかかりながら、相手の間合いを見極めて自分の出すパスを微調整していくの
だ。そして終には、誰もが息を飲むような完璧なパスを送り出す。

 小野のパスというとスペースに落とす浮き球のパスが多く、どちらかと言えば、パスを
受けた選手がラストパスを出すことを念頭に置いた、一つ前の膳立てのパスが多かった。
小野はリスクを犯すよりも確実性を重視するタイプである。

 その証拠にこのインタビュー記事を読んだ頃は、小野のスルーパスに反応した福田の姿
に覚えがなかった。


 だが小野の糸を引くようなパスから福田がゴールを決める日がやって来た。99年5月1
日、日本平スタジアムで行われたエスパルス戦での2得点である。

 後方からのパスに福田はポストとなってボールを落とし、そのまま反転してエスパルス
ゴール前に猛然とダッシュ。その落としたボールを小野が拾うと、福田の姿を追うように
鋭く速いパスを走らせる。スピードに乗った福田がディフェンスラインを抜けた時、その
足元には小野のパスが。二人を繋ぐ空間が光の粒で包まれた錯覚を起こした。

 その興奮が醒めぬよう、更に小野がスルーパスに挑戦する。ドリブルで相手陣内を進む
小野。前方に位置した盛田が左に流れ、清水DFを引き付けスペースを作る。小野はその
スペースにパスを流す。その先にはDFの裏を取った福田の姿があった。しかしこのゴー
ルを決めた後、福田は相手のチャージを受けて怪我をしてしまった。


 それからというもの長い闇が福田と小野を覆った。福田が復帰しても小野が大怪我を負
い、共にピッチに立った頃には、あの感触を確かめる間もなくチームはJ1陥落。そして
J2では二人がプレーする時さえ与えられなくなる。互いの心に美しい残像を抱いたまま
で…


 出来ることなら、J1復帰後の最初のゴールは駒場で挙げたいと福田は考えていた。そ
して迎えたホーム2試合目のアビスパ戦。残像が実像として蘇る瞬間が訪れる。後半39分、
福永がタッチラインから、小野にボールを戻す。小野は受けたボールを軽くゴール前に送
り込む。その先には、DFの裏を取った福田がいた。福田の蹴ったボールは、ゴールキー
パーの股の間を縫ってゆらりとネットを揺らした。


 「小野からのパスで決められてうれしかった」と福田は取り囲むマスコミに心境を告げ
た。あのエスパルス戦でのゴールから2年近い月日が流れていた。小野と福田を結んだパ
スはとても短いものであった。でも短いながらも確かな糸を引いていた。