第28回 シネマ・ファッションそしてサッカー (2001年8月8日)

                                 M.Sunabata

 「月の輝く夜に」という映画を見る度、なぜかフランコ・バレージを思い出す。

 この映画はイタリア系アメリカ人の話で、シェール扮するちょっと冴えない女性・ロレ
ッタが、婚約者の不仲である弟ロニーに、結婚式に出席して欲しいと説得に行くことで、
恋に波乱が起きてしまうという内容。

 弟ロニーはニコラス・ケイジが演じているのだが、職業はパン職人。アメリカではイタ
リア系のパン屋さんが多いとよく聞く。ロレッタとの初対面のいでたちは、白いアンダー
シャツに薄汚れた前掛け姿。

 このシーンを見ると、サッカー選手だったらフランコ・バレージがやったら似合うだろ
うなと思うのだ。

 普段着姿のフランコ・バレージをイメージした時、お洒落には縁遠い、寡黙な職人を思
い浮かべる。だからパン職人は打ってつけの役回りに思える。

 しかしフランコ・バレージはサッカー選手としては、超一流だ。

 よくイタリアサッカーというと、カテナチオと呼ばれる守備が取りざたされる。相手が
最終ラインに飛び込んで来た時に、DFが二人で挟み込む形でそれを食い止めることが、
ゴールへの道を閉ざす門のかんぬきに例えられる。

 しかし最近のイタリアの守備は、本来のカテナチオとは外れている。それはサッキ監督
がゾーンで守るサッカーを取り入れたことで、変化が生じたからだ。それを可能にしたの
は、フランコ・バレージの非常に高いカバー能力があったことで実現出来たと言っても過
言ではない。

 イタリアサッカーを変えた男であるフランコ・バレージとパン職人。意外な組み合わせ
ではあるけれど、そこに共通するのは誇りを持って直向きに自分の成すべきことをまっと
うする姿勢かもしれない。

__________________________________________
 カズがイタリアのジェノバに在籍していた頃、日本に帰国した際に、帽子を被って空港
に降り立ったことを覚えている。 あの帽子はイタリアでも有名なメーカー、ボルサリー
ノのものだったと記憶している。

 そのボルサリーノをそのままタイトルとした映画がある。

 主演はジャンポール・ベルモントとアラン・ドロン。二人ともフランス人だし、もちろ
んフランス映画である。何ゆえイタリアの帽子メーカーをタイトルにしたのかは解らない
が、少なくともファッション最先端のフランスでも、ボルサリーノの帽子に価値を見出し
ていたからだろう。

 映画はギャング映画で、ぺいぺいのギャングである主人公二人が、「ボルサリーノ」の
帽子を被れる位までのし上がろうと誓い、血で血を洗う抗争に身を投じるといったものだ。

 カズがボルサリーノの帽子にどんな思い入れがあったかは知るよしもないのだが、映画
ではあの帽子を被ることが「一流」を意味することとしてなぞられる。

 しかし主人公はボルサリーノに手が届くも、夢半ばでその幕を閉じる。そしてカズも同
じ運命を辿る。なんとも皮肉な結末である。

__________________________________________
 最後にイギリス映画の話を。イギリスの映画には結構サッカーを扱ったものが多い。特
にケン・ローチ監督は有名である。彼の映画で、アマチュア同士のサッカーの試合で、判
定に不服を唱えた選手に、「ベッケンバウアー君」とレプリカユニホームに書かれた名前
を審判に呼ばせるユーモア溢れるシーンがあると聞く。

 ところでイギリス映画はサッカーに労働者階級の苦悩が色濃く影を落とす。

 タイトルは覚えていないが、シュフィールド・ウェンズデーを取り上げた映画があった。
多分、1部か2部でFWとして活躍する主人公が、プレミアの選手になるサクセスストー
リーだった。労働者階級が生活を営む豊かではない街に住む主人公であるが、下部リーグ
であろうと街の人にはヒーロである。子供達は主人公に声を掛け、FWとしてサッカーを
する兄が弟にとっては憧れとなる。

 しかし苦しい生活の中、子供の大切にしているサッカーのプログラムを、親が売り飛ば
して酒代に消えるというような場面に遭遇する。この映画だけでなく今年上映された「シ
ーズンチケット」でも同じようなシーンがあった。

 労働者階級にとってサッカーは生きる為の心の糧であり、それと同時においそれと届か
ない儚い夢でもある。

 さて、アメリカ映画でもイギリスが舞台となれば、そこにはサッカーがある。

 「パトリオットゲーム」ではベルファストにあるテロリストのアジトにSASが踏み込
む場面では、外の空き地では子供がサッカーに興じており、爆弾制作をするテロリストが
聞くラジオからはサッカーのニュースが報じられる。


 シネマ・ファッションそしてサッカー。その扉はいつも通じている。