第3回・FWに求める姿(2000年2月11日)
 文・M.Sunabata

 昨年末に、20世紀(今年も20世紀だけれど)を振り返る特別番組が、様々なチャン
ネルで放映されていた。いずれの番組も、必ずワールドカップ出場を決めた岡野のゴール
シーンが映し出された。あのゴールは、サッカーをあまり見ない人々にも、強い印象を残
したことは間違いない。しかし記憶というものは薄れゆくもので、あのVゴールの前に、
何度もゴールチャンスをふいにした岡野の姿を、忘れてしまっている人もいることだろう。

 FWの選手はどちらかと言えば、楽天的な性格の方が向いているのかもしれない。最悪
のケースを常に想定しながら、それに対処出来るように動ける準備をするDFの選手に対
し、FWの選手は自分の失敗をすぐに記憶から抹殺し、次のチャンスで俺がゴールを決め
るんだと考える、前向きで自信家タイプである。ミスを恐れたり、それに縛られるようで
はいけない。

 ジョホールバルでの岡野のゴールを、あの日テレビで見ていたのだが、決まった後口を
突いて出たのは、「あぁ、岡野らしい」という言葉だった。なぜなら95年のサントリー
シリーズ第13節のヴェルディ戦でも、同じように滑り込んで決めたゴールを見ていたか
らだ。

 その選手らしいゴールの仕方を究めたところに、その選手の得意な得点の形がある。

 FWにとって、得意な得点の形を持つことは、とても大事なことである。ある番組で釜
本氏が、「右45の角度からのシュートは、目を閉じていても決められる」と語っていた。
そのことに付いて、メキシコ五輪で一緒にプレーしていた川淵チェアマンも、「あの位置
は絶対に決めてくれる」と、チームメイトから絶大な信頼があったことを話している。

 FWが得意な得点の形を持っているということは、チームに安心感を与え、選手同士が
明確な意図を持って動くことが出来るという利点がある。

 日本サッカー史上最高のストライカーと言われる釜本氏は、守備をしないFWであった
と言われている。釜本氏に言わせれば、「FWは点を取ることこそが仕事」であるから、
守備にエネルギーは割かないということだろう。また「DFが前にいようがいまいがゴー
ルが見えればシュートを打つ。ゴールが決まろうがそうでなかろうが知ったこっちゃない」
とも話している。釜本氏の守備に対する意識が、前線から最後尾までがコンパクトになっ
た現代サッカーに即しているとは思わないが、FWにはこういった強引さやエゴイスティ
クな面が必要な要素ではないだろうか。

 一見「わがまま」に見えるワンマンなプレーを周囲に認めさせるには、ゴールを確実に
決めることが重要であり、それが他のプレーヤーの信頼を勝ち得ることにつながり、やが
てチームのカリスマ的FW=ストライカーにとなっていくのではないか。FWも単なる「わ
がまま」で終わらせない為に、「ゴールを必ず決める」という心理的プレッシャーを乗り
越えこそ、それが成立するのである。

 バジャドリードに移籍した城が、今チームに求められているもの、それは彼が得意とす
る得点の形は何かということを示すことであり、FWとしての強引な姿だろう。

 城はスペインに行ってから、左足のシュートなど自分の苦手なプレーを克服しようと努
力していると聞く。スペインでは、相手チームが対戦する相手選手の癖や得意プレーをビ
デオで徹底的に分析し、その良さを潰しに行くかららしい(日本でもやっていることだと
思うのだが)。

 確かに苦手なプレーをなくす、それ事態は大切なことだが、しかしバジャドリードの監
督は城に対して、「彼が持っていないものを求めてはいない。彼の日本でのプレーを見て、
それがチームに必要なものだったからこそ、彼をスペインに呼んだのだ」と発言している。

 また、現日本代表の攻撃の形が見えないと言われているが、それは裏を反せばFWの得
意な得点の形がまだ曖昧で、他の選手がそれを活かす配給が出来ないということであり、
FWも他の選手に対して、自分が欲しているパスを強く要求できないナイーブさにもある
とも言える。

 だから城は自分の得意な得点の形の精度を更に高め、時には自分を優先した強引なプレ
ーをしてゴールという結果を追求して欲しいのだ。

 ところで前々から海外のリーグを見ていて気になっている点がある。それはFWがシュ
ートを打つ位置に付いてなのだが、日本と海外とでは勝負を賭けるポイントが少し違うの
ではないかということだ。

 日本のFWはペナルティーエリアに深く進入してシュートという意識がとても強い。し
かしセリエAなどでは、FWがDFの裏を取った時など、ペナルティーエリアに入ったか
どうかというポイントからシュートを打つことが多い。ペナルティーエリアに進入してか
らシュート体勢に入ったのでは、せっかく引き離したDFに時間的余裕を与えて寄せられ
てしまうからだ。日本のFWのように持ち込んで、DFをかわしたりGKを抜いたりとい
うプレーを好んでするのは、海外ではむしろMFの方が多いように思う。

 日本にも、ペナルティーエリアに入ったかどうかという付近からシュートに挑む、メン
タルとスキルの両面に秀でた、パワーのあるFWが育って欲しいものだと思う。