第34回 ボールテクニックがなくても上手くなれる?! (2002.2.1)
            〜「少年少女指導員講習」 体験記〜

                                 M.Sunabata

 サッカーの技術修得に当たり、植物が水を吸い上げるように技術を吸収してしまう年代
がある。例えば有名選手のプレーを真似る時、大人だとあれこれやってどうにか形になる
が、子供だと短時ですんなり真似してみせる。特に即座習得に顕著な年頃は9歳から12
歳頃であり、この時期をゴールデンエイジと呼んでいる。

 つまり小学校の高学年がその時期に匹敵し、生理学的に言えば、神経系統の発達がピー
クに達する。この年代でほぼ完成してしまう神経系統は、それ以降は著しい変化はみられ
ないなくなる。

 だからゴールデンエイジに至る小学生時代に、ドリブルやボールの変化を伴うキックの
仕方などのボール扱いのスキルを高めることは重要で、サッカーだけに拘わらず様々なス
ポーツを通して身体の動きを体験することも大切になってくる。

 それと同時に「サッカーって楽しい」という気持ちや興味を育ててあげる年代でもある。

 つまり小学生年代でいい指導者に出逢うことは、子供達のその後に多大な影響を与える。
指導者の育成をする為に、サッカー協会はライセンス講習を手掛けている。その講習を受
けてS級ライセンスを取得となれば、Jリーグの監督にもなれる。その最初のステップが
少年少女指導員である。


 まぁ、堅い話はこれくらいにして、サッカーボールをろくに蹴られない私が、少年少女
指導員講習を受けて感じたことを述べていこう。少年少女を指導に当たって、この年代に
基本的に教える内容が盛り込まれている。その要素は、サッカーをあまり体験していない
人にとって、上手くなるコツなんじゃなかろうかと思えたのだ。

 当然、ドリブルなどのボールテクニックは、この講習を受けたからといって急激によく
なるわけなどない。私のゴールデンエイジはとっくのとうに過ぎ去っている。私も含めて
サッカー経験のない女性が数人いたのだが、自分達をブロンズエイジ(進歩は猛烈に遅い
が微々たる上達は見込めるかもしれない年頃の意)と勝手に命名する冗談も飛び出した程
だ。

 ならば、上達のコツなんてあるの?という疑問が湧くだろう。その答えは「コミュニケ
ーション」。

 サッカーは個人レベルの技術が高ければすべてが上手くいくわけではない。サッカーは
個人競技ではなく団体競技である。しかも同じ場所に固定されるのではなく、ピッチを広
域に移動する。だから小学生のチームからプロチームまで、この「コミュニケーション」
は重要なファクターなのである。


 まず、この講習会では、4人くらいのメンバーに分かれ、自己紹介をした後、お互いの
名前を呼びながら手を使ってボールをパスしあった。特に草サッカーだと名前も知らない
人とプレーをしたりする。パスを貰いたくても名前が解らなければ相手に要求出来ない。
コミュニケーションの第1歩は相手は誰かということを知ることである。

 名前を知れば、パスを出す側も受ける方もスムーズになるはず。「○○さんパス出すよ」
「××さんパスちょうだい」という意志の表示はサッカーの根幹を成すものとである。

 コミュニケーションには、それ以外に「マノン」と背後に敵が迫っていることを味方に
警告する、「フリー」とボールを持った者に周囲に敵がいないことを知らせるなど、「状
況の伝達」も挙げられる。よくGKの声は神の声とか、DFが右とか左とか前にいる選手
にボールを出す指示を出しているが、味方が気が付かない(見えない)状況を教えている
のがそれだ。

 でも1番難しいのは、「どこ」でボールが欲しいかを「要求」することなのだ。この点
に関しては日本のトッププレーヤーでも外国人選手に比べて不得手らしい。ボールホルダ
ーに「○○パス」と呼びかけると同時に、ボールを受けたい場所を手で指し示すジェスチ
ャーを交えてみる。

 声をかける、ジェスチャーを交える、たったこれだけの変化でも、グループでのボール
回しがスピーディーでスムーズになるから不思議なもの。


 ただコミュニケーションを取るといってもタイミングが重要。よく子供を見ていると、
「ハイ、ハイ」と言ってのべつ幕なしボールを要求していたりすることがある。それでは
フリーでいても、ディフェンスしている選手にも教えることにもなるし、パスの出し手も
いつボールを出せばいいか解らない。

 オフトが日本代表監督時代は「アイコンタクト」と言われていた。パスの出し手の視野
に入っていない選手に、正確なパスは出せないからだ。パスの出し手・受け手が目を合わ
せた後が、声やジェスチャーによる意志の疎通を計るベストなタイミングと言える。


 声かける、ジェスチャーは出来た。タイミングの件も解ったけど、敵にマークされてい
てはパスは来ない。パスを受ける適性のポジショニングを取らないとね。

 まずはパスの出し手の視界に入るスペースに走り込むこと。敵の密着マークがあれば、
一端は別方向に動いて敵の注意を引き、爆発的なダッシュで相手を置き去りにしてスペー
スに走る。要はマークする選手との騙し合いっこみたいなもんだ。トルシェのいう「ウエ
ーブ」は騙しのテクニックの1つだ。

 それに関連して視野の確保ということも大事になってくる。出来るだけボールとゴール
を両方見える位置にポジションを構えることを心掛ける。まだまだそこまでの動きは私に
は掴めないが、次にパスを出せる位置にいる人とボールを同一視野に入れるようにすれば
短いパスは繋げやすくなるかもと思ったりした。


 サッカー下手っぴーの私にとって、1日目の実技講習ではこんな風に学び取った。何よ
り大切なのは「コミュニケーション」とそれを計るタイミング。

 次回の少年少女指導員講習は2月3日。そして個人的には2月16日にフットサルを行
なう予定だ。フットサルはドリブルを多様するよりも、スペースを利用してのパス展開が
鍵となる。今回の学んだことを実行するにはもってこいとなるだろう。

 果たして、ブロンズエイジの次なる進歩は見込めるのか?3回連載でレポートしていく
つもりだ。