第41回  「クラッシックな男」 (2003.7.10)

                                 M.Sunabata

 6月下旬にエジムンドが「牢獄から出勤」なる記事が掲載された。裁判になっていた交
通事故の過失責任を取らせる判決によりもの。

 これとは別に、所属チームでは色々と問題も起こしているし、現に最近もレッズを電撃
退団して、多大な批判を浴びたのは記憶に新しい。

 でもエジムンドのサッカー技量が世界でもトップクラスで、今年のJに於て「1度は観
るべし」と言えるような逸材だったのは、紛れもない事実だったと思う。


 私は彼ほど「クラッシックな男」を知らない。クラッシックといっても昔タイプのとい
う訳ではない。エジムンドのプレーにはクラッシクの音楽のような匂いがしたという意味
でだ。

 例えばオフサイドラインでのエジムンドの動き。完全にオフサイドの位置で、まるでフ
ワフワ漂うようにしている。だが味方が楔のパスを繰り出す、まさにその瞬間、ここぞと
いうタイミングにオフサイドライン上に身を滑り込ませる。その姿を観ていると、バッハ
のバイオリンの名曲「G線上のアリア」を演奏しているように感じた。「G線上アリア」
はバイオリンのG線だけ使って演奏する。まるでエジムンドはオフサイドラインというG
線を滑る弓のようだった。

 それ以外にも別の曲を思い浮かべさせるプレーがある。それはチャイコフスキーのバレ
エ組曲「白鳥の湖」。「白鳥の湖」は、魔王により、昼は白鳥で夜だけ人間に戻れる呪術
を掛けられたオデット姫が、夜の湖で王子と出逢う。呪いが解けるのは「永遠の愛」のみ。
王子はオデットに永遠の愛を誓うのだが、ある舞踏会で姿の似たオディール(魔王の娘で
あり、黒鳥で表現される)に心を動かされてしまう。その後、王子は自分の犯した間違い
に気付き、オデット姫を救うために魔王に敢然と立ち向かうという話。

 白鳥のオデットは静寂であり、幽玄で自然な振るまいが王子の心を惹く。反対に黒鳥の
オディールは激しく、鮮烈で、誘惑するように王子を頭から支配する。舞台でもオディー
ルの踊りには爪先で32回転する派手な見せ場もあるくらい。

 オデットをエジムンドとすれば、オディールをピクシーとして説明をするとより解りや
すいだろう。

 ピクシーがドリブルをすると、ピクシーはボールを相手の前に晒し、「取れるものなら
取ってみよ!」というように、挑発的で自分の間合いに誘い込むのが上手かった。そのマ
ジック魅入られて、何人のDFが躱されたことか。言うなればオディールのようなタイプ
のプレーヤーなのではないかと思う。

 ところがエジムンドは違う。レッズの一員として、駒場で唯一、闘った古巣のヴェルデ
ィ戦。ドリブルはスピードがあるわけでもなく、突っつくようにボールをキープしながら、
自然な姿勢でゆったりしている。エジムンドとボールの間はそう近くなく、その間合いだ
と端からは、やすやすとボールをカット出来そうに見えた。だがヴェルディの選手は簡単
には飛び込んでいかない。軽率に行ったら最後、躱されるのがオチだからだ。じっくりと
時間を掛けて包囲する。

 1度だけ、単独で思い切って飛び込んだ選手がいた。ヴェルディ陣内の右タッチライン
にいたエジムンドの足元にスライディングした選手のプレーは、私もボールはタッチライ
ンに出るだろうと、その判断をナイスプレーだなっと感じていた。が、それは脆くも崩れ
去った。相手ボールになったと思うと、エジムンドは何の気負いもなくスコンと奪い返し
て、その選手を置き去りにしていった。私にはそのスタイルはまさにオデットそのものの
様だった。

 エジムンドのプレーはJでは2度と観られないだろう。エジムンドの性格は私には受け
入れられないが、けれどいつまでもこの胸に留めたいと思わせるプレーヤーである。