第5回 ストライカーの彷徨(2000年3月10日)

      文 M.Sunabata

 

 99年11月27日駒場で行われたリーグ最終戦、Vゴールを決めたあと、福田は人目もはば
からず泣いた。チームがJ2に降格した現実に、先発出場という形では監督の信頼を得られ
なかった(福田は後半残り10分から出場)自分の不甲斐なさに、そしてある選手に対する思
いに。

 アイトール・ベギリスタイン、チキの愛称で親しまれた彼は、スペイン代表、FCバルセ
ロナで活躍し、今でもバルセロナの人々に愛されている選手である。チキはバスク人らしく、
控え目で堅実で粘り強く、レッズでの二年半、地味ではあるが「職人」的なプレーでチーム
を支え、そしてこの試合を最後に現役を引退することが決まっていた。しかし福田とチキは
同じピッチに立つことが適わなかった。

 パサーとの巡り逢いが、ストライカーとしての福田の運命を、大きく揺り動かしている。

 Jリーグが誕生した93年、レッズにはモラレスという攻撃的MFの選手がいた。しかし当
時の森監督は、チーム戦術に合わないとして、モラレスをたった3試合で解雇してしまった。
そういったチーム事情により、ゲームメーカーとゴールゲッターとしての仕事を同時に求め
られた福田は、すべてを背負い込み過ぎ、肉離れなどの怪我もあって精彩を欠いていった。

 94年、レッズはヴェルディから菊原をレンタル移籍で獲得。この年の初戦のマリノス戦で
は負けはしたものの、福田・菊原のコンビは、数多くのゴールを生む予感を漂わせていた。
しかし菊原が怪我で長期離脱してしまい、福田自身も、9節のベルマーレ戦で1試合4得点とい
う当時のJリーグ記録を作ったものの、15節以降は試合から名前が消えた。恥骨炎を起こし、
ドイツに渡り手術を受けなければならなくなる。福田はリーグ戦残り10試合という頃、ピッ
チには戻ってきたものの、その煌めきは失せたままであった。

 だが95年、ウーベ・バイン(94年セカンドステージよりレッズに加入)という左足の天才
パサーをパートナーに得て、ゴールゲッターに専念することが出来るようになった福田は、
バインのDFの間を抜くキラーパスと福田のDFの裏を取るプレーが相まってゴールを量産
し、その年の得点王になる。「ウーベなくして得点王はなかった」と福田が言うように、バ
インのパスが、福田の本来持っていたストライカーとしての煌めきを、引き出したのは間違
いない。

 ところが96年、またしても怪我という悪夢が、福田に襲いかかる。練習中に左足を骨折。
福田自身がのちに語っていたが、「もうプレー出来ないかもしれない」と思う程、選手生命
をも脅かすような大怪我であった。復帰後の福田はそのプレースタイルを変えざるを得なか
った。スピードに乗って相手の裏を取るプレーが影を潜め、前線に張ってDFの視界から一
旦消え、ゴール前に入ってきたパスに合わせてゴールを奪うスタイルになった。そしてその
プレーを支えたパートナーがチキであった。

 チキは強引にゴールを狙う選手ではない。常にFWの動きに目を配り、彼らを生かすラス
トパスを出すのが持ち味だ。試合中のチキを見ていると、彼はボールを持った瞬間に、福田
がゴール前のどの位置にいるのかを確認している姿が目についた。

 チキというパートナーがいたからこそ、今の福田のプレースタイルが確立していったと言
っても過言でない。それは福田が自身のホームページで、「チキは生きていく中で忘れられ
ない人」と語っていることからも伺える。

 そして最後の試合に二人が同じピッチに立てなかったことに対し、チキも福田と同じよう
に無念の思いを抱いている。浦和ケーブルテレビのインタビューに対し、「伸二、ペトロ、
福田、そして自分が同じピッチに立ち、自由にやらせてくれていたら...」と。

 ストライカーには大まかに二種類のタイプがある。例えばロナウドのように、自らがボー
ルを持ち込んでゴールを決めてみせる、その人物自体が強烈な光を放つ者と、パサーという
パートナーを得てこそ、よりその才能が鮮烈に煌めく者。福田は後者のタイプである。そし
て福田の良さを最大に引き出したバインとチキは奇しくもレフティーであった。

 福田の利き足は右である。バインの場合、ボールを受けた後、ゴールに向って軽くドリブ
ルをし、左足インサイドでパスを出すことが多かった。体の正面をゴールに向けている体勢
を考え併せると、右サイドにパスを流す方がやりやすいだろう。右エリアからのゴールが多
い福田にとっても、バインのパスは受けやすかったと考えられる。95年の福田を思い返すと、
バインのパスを右エリアで受けて、相手ディフェンスを崩してのゴールやPKを誘ったシー
ンが思い出される。

 またチキの場合、左サイドから左足でゴール前にボールを入れてくるのだから、福田は利
き足の右インサイドでボールを受け、無理なくボールをコントロールし、次の動きもスムー
ズに出来たことだろう。

 それらの点から考えれば、レフティーとの相性の良さは、互いのプレーが理に適っている
結果とも言えると思う。

 先日、福田本人に、「左足のパサーがパートナーの時、数多くゴールを決めているが、何
かそこに必然性があると思うか」と質問をしてみた。福田はしばらく考えて、「解らないで
すね」と答えた。そのあと、「でも」と言葉を続けた。「確かに小学生の頃から、左足のパ
サーからのパスによる得点って多いんですよ」と話してくれた。更に「僕の(レフティーに
対する)思い込みが強いからかもしれないんですけど、阿部とは合う気がするんですよ」と、
今シーズン、アントラーズから移籍してきたレフティーの阿部のことを語ってくれた。

 現時点では、レッズが今シーズンどのような布陣を取るのかは解らない。福田にとっても、
現役でプレーする時間は、残りが少なくなってきている。福田は、彼を支えるであろう新た
なるレフティーと、少しでも早く良好な関係を構築することが出来るのか...

 福田は次なるステージでの戦いに挑もうとしている、ストライカーとして煌めき続けるた
めに。