第6回 J2はコワイ(2000年3月24日)

               文 M.Sunabata

 J2の試合を初めて見た。私の生活圏の事情から見る機会を逸していたわけだが、J2
を巡る環境の変化に伴い、生やテレビ観戦が仕易くなってきている。
 J2というと、安直に技術・戦術面でJ1よりも劣ると見られがちだが、J2にはJ1
にない、独特で様々な要因との戦いの形がある。
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 はじめての観戦は、開幕戦のレッズ対ホーリーホック。J2降格のレッズと昇格したホ
ーリーホックの顔合わせであったが、金銭的にも戦力的にもレッズに比べて豊かでないホ
ーリーホックの頑張りに目を見張ったが、それ以上に私を驚かせたものが...何がって、
それは審判の技術だ。

 前半も間もなく37分になろうかとしていた時、小野の縦パスを受けた福田が、タッチラ
イン沿いにドリブルで駆け上がり、内に切れ込もうとした。その足目掛けて(ボールでは
なかった)DF木山のタックルが入った。ボールは倒れた二人を無視するようにゴールラ
インを割った。

 それは相当悪質なファウルであった。福田の激昂する姿が見て取れた。普段福田はそう
怒らない。怪我で泣かされた期間が長くあり、自分でも残された選手としての時間が短い
と知っている福田にとって、開幕戦で怪我をするわけにはいかない。しかもその少し前の
時間にも木山からファウルを受けていた。

 私はレッドカード、少なくともイエローぐらいは出て当然だと思った。が、吉田主審の
判定はゴールキックだった。

 何もホーリーホックに対するジャッジが甘かったと言うつもりはない。レッズだってそ
の後、1、2枚のイエローが出てもおかしくないプレーを、ファウル止まりで免れている。

 読者の中には、ある意味どっちにも公平と言えるのではと思う人もいるだろう。またJ
2をよく見ている友人に言わせれば、「それがJ2なんだよ」とのこと。つまりはそれが
日常茶飯事。そう言えば、昨年のJ2の怪我人は多かったっけ。

 でもそれって変じゃない?!審判はルールを遵守させ、ゲームをコントロールするのが
大事な仕事だけど、それ以上に選手の安全を確保してあげることの方がもっと大切じゃな
いか。それはJ1だろうとJ2だろうと、はたまた子供の試合であっても、それはなされ
なければいけない。

 ラフプレーは、された選手だけでなく、往々にしてした選手が怪我をしてしまうことが
ある。誰もが無謀なプレーで選手が怪我するのを望んではいない、例えそれがサポートす
るチームの敵であっても...
 カードを出さないことが良い審判の条件ではない、出すべき場面で出せることこそ必要
なことなのだ。しかしその基準が覚束無い審判がいるなんて。
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 コンサドーレは昨年J2に降格して、昨シーズン前はJ1昇格の有力候補に挙げられて
いた。しかしシーズン序盤の躓きが尾を引いて、昇格を果たせなかった。

 でもテレビでサガン対コンサドーレ戦を見た限りでは、外国人を含めた補強も適切で、
今シーズンは良い仕上がりを見せている。フラビオフィジカルコーチの退団と選手層の薄
さという不安材料はあるものの、昇格争いに絡んでくるのは間違いなさそう。

 J1にいたチームの情報は、テレビで試合中継があるので容易に手に入る。しかしJ2
のとなると、現場で試合を見なければ手に入らない。昨シーズンのコンサドーレの躓きは
これが大きく関係していたのではないだろうか。対戦相手に研究尽くされ、コンサドーレ
には情報が不足していた。

 この点に付いて、レッズの斎藤監督も悩みを持っているようで、「まだ他チームの情報
が総ては入ってきていない」と嘆いている。

 確かに監督が交代していたり、選手の流動が大きなチームもあるが、J1経験の監督・
選手が主だから、J2にいたチームにとって、その監督の戦術や選手の特徴は造作なく手
に入る。更に昨シーズンのデータもある上、年間40試合に及ぶ長いシーズンを戦い続ける
術も身に着けている。

 マスコミにはJ1昇格の筆頭にレッズやベルマーレを推す向きもあるが、決して情報戦
という点では有利ではない。そういうことからJ2を見れば、コンサドーレ、アルディー
ジャ、トリニータというチームが、優位に立つとも考えられる。レッズやベルマーレの降
格組がJ1にいたという事実を盾に過信していたら、足元の落し穴に気付かずに、「ドス
ン」ってこともある。それって香水のプワゾンより危険な薫りがするかもしれない。
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 わずか1点がJ1生き残りを決した昨シーズンだが、今年のJ2は得点力の有無が大き
な鍵になりそうだ。

 J2は昇格争いに絡むチームとそれ以下のチームの実力の差が大きく、二極分化してい
る。しかし昇格レースに絡むチーム同士の実力は伯仲している。

 下位チームに対し星を落さないことは昇格における第一条件であるが、大量に点を取れ
る相手にはきっちりと点を取っておくことが大事だ。そうしておけば、勝ち点でライバル
チームに並ばれても、得失点差というプレッシャーを常に相手に掛けることが可能だ。

 下位のチームは上位チームを。食ってやろうと必死にやってくる。ともすれば全員が自
陣に引いて守り、ワンチャンスに賭ける戦術を取ってでも。例えば上位チームが1点差で
勝っているゲームで、下位のチームは勇気を奮って立ち向かってくるし、上位チームにす
れば追い付かれる怖さから焦りを感じる。もし同点にでもなれば、守りに徹した相手をそ
うそう崩せるものではない。そうなった時の上位チームの疲労とダメージは途轍もなく大
きい。

 闘牛士が牛の息の根を冷徹な優しさを持って仕留めなければ、相手の角によって自らの
命を失うように、華麗なパスワークに酔いしれるよりも、泥臭いゴールの方が価値がある
ことに気付かなければ、痛い代償を払うことになる。
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 いまでも小野がJ2のレッズに残ったことに対し、「彼の成長の為には良くない」と危
惧する声を聞く。でも私は結構そうでもないのではと、J2の試合を見て思っている。

 多くのチームはレッズ相手ということで、引いて守ってくるだろう。ということは、ゴ
ール近くになればなる程スペースがなくなる。小野には相手選手が何人かで囲んでくるだ
ろうし、味方FWには厳しいマークが付く。

 J2にはJ2のパス出しの速さと正確性が要求される。J1でもパス出しの速さと正確
さは必要なのは当然だ。しかしJ1ではいくら小野がすごいといっても、3人4人で囲む
ことはそうないし、FWに対しても相手DFは他の選手の動向にも注意を払わなければい
けないから、J2のようにFWに何人もの選手が密着マークをすることも少ない。

 味方、敵と混在した狭いスペースの中で、小野が相手に囲まれる前にどれだけパスを速
く出せるか、またFWが相手DFとの間に作るわずかの空間を、見逃さずにタイミング良
くしかも正確に出せるか、小野のセンスが勝負の分かれ目になってくる。

 それにFWが密着マークに合えば、小野は2列目からの飛び出しも要求され、スペース
がなければミドルシュートを打って自分が得点を挙げなければいけない場面も多くなる。
 そして小野にはキャプテンとして、レッズを1年でJ1に復帰させるという命題も科せ
られている。それが出来なきゃ、サポーターが黙っちゃいない。
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 J1にはJ1の厳しさがあるように、J2にはJ2の厳しさが存在する。J2はそう甘
くはない、そこには様々な恐怖が渦巻いている。