第7回 スタジアム・オブ・ライト(2000年4月7日)

            文 M.Sunabata

 

 スタジアムには光がある。射るような陽の光であったり、ナイターを彩るカクテル光線
であったりと、プリズムを通した夢色がその空間にはある。そして日常の生活とかけ離れ
た場であっても、様々な人の喜怒哀楽を凝縮した人生そのものが、その空間には詰ってい
る。

 先日、初めてダービーを体感した。J2同士の初のダービー、同じ埼玉県に本拠地を置
くレッズとアルディージャの「埼玉ダービー」である。

 同じ都市(日本では県も加わる)に本拠地を置くチーム同士のゲーム<ダービーマッチ>
を何度か見たことはある。

 ダービーと言えば、有名なところでイタリアのミランとインテルがすぐに思い浮かぶ。

 この2チームは同じスタジアムをホームにしている。にも拘わらず、ミランサポーター
は「サンシーロ」と呼び、インテルサポーターは「ジュゼッペメアッツァ」と言って、決
して同じ呼称を使ったりはしない。両チームのサポーター同士の衝突は、ゲームの後先に
関係なくしょっちゅう起っており、そのエネルギーは凄まじい。サポーターの中には、「リ
ーグ優勝が出来ずとも、ダービーでライバルチームに負けることだけは許されない」と、
この対戦に付いて語る者もいると聞く。

 日本ではそこまですごくはないが、ダービーに賭けるサポーターの思いが、試合に足を
運ばせて、スタジアムを満員にする。それが横浜国際総合競技場のような巨大なスタジア
ムであってもだ。そして自分の愛するチームの動向に一喜一憂し、いつも以上に応援もヒ
ートアップする。

 と、いうことは頭で理解はしていたものの、今までの私はただの傍観者でしかなかった。

 埼玉ダービー前、何人かに質問してみた。「別のカテゴリーに分かれていた時、それぞ
れのチームをどう思っていたか」ということだが、自分の贔屓チームと同じ地元にあるも
う一方のチームを、やはり応援していたと、答えが返ってきた。私の友人達も、両チーム
の後援会に入ったりして、双方のチームをそれぞれの形で応援している。

 しかし同じ土俵に両チームが立ったからには、真に愛するチームはどちらであるかを表
明することを、この日駒場に集まった2万もの人々は迫られた。

 スタジアムに入ると、やはりいつもの空気と熱さが違う。駒場での緊迫したゲームは何
度も経験している。確かに燃えるものがあるが、張り詰めた糸のようにスタジアム全体が
緊張し、身が引き締まるほどの冷気を感じる。その心を燃やす炎を色に例えるなら青だ。
しかし初のダービーを迎える人々を取り巻く雰囲気は、熱情に浮かされた真紅の炎だった。

 ところでサッカーマガジンに於いて、選手のダービーに対する心情が書かれていたが、
さほど意識をしていなかったということだった。だがゲームを見た限りでは、そうでもな
かったように思う。どの選手を見渡しても、球際での攻防は、互いのぎりぎりの線でいつ
も以上に激しくぶつかっていたし、大柴がペナルティーエリアで倒されてPKの判定にな
ったシーンでは、アルディージャの選手が、今までに見たことがないほどにエキサイトし
ていた。スタジアムの熱気に煽られ、知らず知らずの内に、選手も互いを意識し始めてい
た。そして周囲から吹きつける熱風に一番舞い上がっていたのは、主審だったかもしれな
い。

 どうしてダービーは燃えるのか、その理由は解らないままだ。だが大切なことは、自分
がチームをどれだけ愛しているかということを、強く再認識することが出来たことだ。そ
してそのことを、選手もサポーターも身を持って表現していく。またライバルが身近にい
て切磋琢磨することで、選手・サポーターが各々の存在価値を見い出す...それがダー
ビー。

 試合後、スタジアムを去る人々の顔には、これまでにない輝きがあった。そうダービー
という新たな人生の扉を開いた喜びが、光のように満ち溢れていた。