第25回 アメリカ女子サッカー成功の背景(2001年5月23日) 

                                  M.Sunabata

 アメリカで新たにプロスポーツが誕生した。ウィメンズ・ユナイテッド・サッカー・ア
ソシエーション、略してWUSA。つまり女子のサッカーリーグである。
 女子のプロスポーツというと、概して商業的な価値を低く見られがちであるが、WUS
Aに対するアメリカメディアの反応は上々で、WUSAの選手がファッション雑誌に取り
上げられたり、ミア・ハム(アメリカ代表、ワシントン・フリーダム所属)のようなスタ
ー選手になると、彼女を模したバービー人形まで発売される程で、すっかり少女達のアイ
ドルに定着している。


 WUSAを立ち上げるに当たって、その先鞭をつけたのが、99年に開催された女子サッ
カーW杯アメリカ大会である。

 この大会の運営にボランティアとして参加され、現在はJFA技術委員会・女子プロジ
ェクトの仕事をされている小林美由紀さんから、この大会の成功の理由はどこにあったの
か、延いてはアメリカの女子サッカーが人気を博する根源はなんであるのかという内容の
お話を伺った。

 まず、この大会がどのような数字を残したかについて言うと、大会は99年6月19日か
ら7月10日までの22日間で、大会期間中の延べ観客数は65万人。1試合当たり2万人が
観戦に訪れたことになる。アメリカでの視聴率は13.3%で、アイスホッケーのプレーオ
フの中継視聴率よりも高い数字であったようだ。入場料収入は230万ドル(およそ24億
円)。決勝戦は地元・アメリカが中国と対戦したこともあり、オレンジボールは9万人の
観衆で膨れ上がった。

 ホストカントリーであるアメリカが優勝したこともあり、アメリカ代表チームはその人
気を不動のものとした。余談ではあるが、優勝を決めた瞬間に、アメリカチームの一人の
選手がユニホームを脱いで喜んだところ、その選手の着けていた「スポーツブラ」が話題
となり、そのブラジャーが品薄なる現象まで引き起こしている。


 この大会の運営的成功には以下の要因が上げられている。

 一つには大会組織委員に多くの女性委員を抜擢していることである。大会委員には女性
弁護士、金メダリストの元水泳選手を招聘し、96年大会の組織をそのまま運用した。大会
名誉委員にはクリントン大統領だけではなく、ヒラリー夫人も就任している。
 女性が運営する大会としては、最大規模であり、女性だけでなく男性からも多くの賛同
を得たようである。

 更にアメリカ代表の選手を中心に、ロールモデルとしてマスコミ登場させ、衆目が集ま
るように露出度を高めた。先に述べたファッション雑誌への掲載はもちろん、大会期間中
のCMに出演。例えば、ベビーベッドにいる子供にママがボールを投げると、掴まり立ち
がやっとの女の子がボールを手で打ち返す。その赤ちゃんが大きくなって、アメリカ代表
のGKに成長したよ、なんて具合のCMをスポーツメーカーとタイアップして制作してい
る。

 またこの大会を広く知らしめる為に、大会の前にはアメリカチームは数多くの親善試合
やチャリティーマッチを地方に巡業する形で行っていた。アメリカ代表が強かったことも
あり、「You Play Like A Girl !」つまり男性が情けないプレーをした時に「女の子みた
いなプレーをするな!」と野次る意味合いを持つこの言葉が、「女の子らしくプレーしよ
うよ!」という合い言葉として世間の認識を変えるほどの影響力をもたらした。


 ところで、世間の認識を変えるほどの実力を持っているアメリカチームであるが、女性
を男性と平等に見做すアメリカの社会的背景が大きく反映している事実を見落としてはい
けない。

 男子サッカーというとヒスパニックなどを中心とした移民のスポーツであるという心理
がアメリカ人の大半を占めているらしい。
 しかし女子サッカーとなると、中流以上の白系女子がするスポーツいう思いがある。
 アメリカには日本よりもスポーツ愛好家が多数おり、女の子を持つ親はサッカーを嗜ま
せたいと希望している。それを象徴するように「サッカーママ」という言葉が生まれてい
るくらいだ。

 その上、日本のように学校対抗のスポーツが盛んである。ということは、学校でクラブ
活動があるということだ。もちろん共学の学校が多く存在する。

 そこで出てくるのが「タイトルァ」なのだ。これは在学男女の比率と同じだけ、男子と
女子のクラブ数、及びクラブの予算を分けなくてはいけないというものだ。
 例を出すと、生徒の男女比が男6に対し女4とすると、男子の所属するクラブが6割、
女子の所属出来るクラブは4割なければいけないということで、予算も男女のクラブ間で、
6対4で配分しなければならない。これは法的拘束力もあって、訴訟社会のアメリカに於
て、これが守られていない学校はたちまち裁判沙汰となってしまう。

 ゆえに女子に人気のあるスポーツであるサッカー部が多く存在し、予算も確保されてい
るので、外部からコーチを雇いいれることも出来るようだ。その成果もあって、優秀な人
材が育ち、今のアメリカ女子サッカー界を支えているのであろう。


 話しは変わるが、日本の女子スポーツ選手はママさん選手が少ない。スポーツ新聞を見
ても女性アスリートが結婚となると、必ずと言っていいくらいに「引退」という文字が横
に並ぶ。
 現在、女子サッカー日本代表の選手は全員が独身だそうだ。しかしアメリカ代表となる
と20人中15人が結婚をしながらも選手活動を続けている。
 もちろん選手活動を続けていくのはパートナーの協力なしでは難しい。ましてや子供を
出産するとなると…
 アメリカ代表は年間のほとんどを合宿生活で過ごす。子供を抱える選手だっている。だ
が子供連れで合宿を行い、驚くことにそれをサポートする為にベビーシッターがチームに
帯同している。そして休日には単身赴任のパートナーが合宿所を訪れて親子水入らずの時
間を過ごすようなのだ。

 アメリカの女性に対する平等意識と社会的環境により、女子スポーツ選手がアスリート
であり続けることを容認している。


 これらの小林さんの話を聞き、日本での女子スポーツに対する地位の低さを実感せずに
はいられない。マイナースポーツになればなるほどその状況は悪くなる。
 しかも不況化に置かれ、多くの企業が社会人スポーツから撤退している。
 更には女性選手を取り囲む現状も厳しい。女性として初めてオリンピックに出場した人
見絹枝の時代は、女性が人前でスポーツすることさえままならなかった。そんな偏見はい
まではなくなっているが、それでもなお、結婚・出産を望むことと引き換えに、スポーツ
を続けることを断念し、続けるにしても周りの理解を得ることも困難であり、それを支え
る環境も整ってはいない。

 totoの売上金はスポーツ振興に役立てると聞いてはいるが、ハード面の充実ばかり計る
のではなく、女子スポーツ選手がアスリートとして居続けられる為の保証としても使用さ
れることを願ってやまない。

 アメリカの女子サッカー選手を、女の子達が憧れ、それを目指していくように、日本の
女の子がさまざまなスポーツ選手を目指して伸びていけるような…