「いいんでないの」 vsフランスから

                                  M.Sunabata

 春というと、学校や職場で「新人君」を歓迎する飲み会をする。まぁ、酒好きにとって
は、若手を魚に酒を飲む正当な理由を作るといったところかな。
 その新人君の中に、「俺、酒が強いんですよ」というヤツが一人くらいはいるもんです。
酒が強いと言っても場数は踏んではいない「新人君」は調子に乗って酒を口にした。確か
に旨い酒だが、思ったよりもきつい。酒が強いと言った手前、引っ込みがつかずどんどん
と煽るように飲んでいたら、とうとう酒に飲まれてノックアウト。その酒のラベルを見た
ら「フランス産」だった。
 と、3月に行われたフランス戦を見て、ふとそんな光景を思い浮かべたのであります。


 フランス戦の翌日の新聞は、0ー5の大敗に「これでいいのか」の論調一色になりまし
た。
 でも私個人は「これでいいんでないの」と思ったのです。

 日本代表にとっての今年の位置づけは、世界の強豪国との試合を重ねることで、自分達
の実力を踏まえて、世界のスピードにいかに順応し、相手によって自分達のサッカーを踏
襲する部分と変える部分をどう見極めるかということを明確にする為にあると考えていた
からです。
 だからこそ、最初に世界最高の地位にいるフランスとやれたことは、大まかに言う「世
界との差」を如実に知ることが出来て、幸せだったのではないかと思うのです。

 フランス代表は、重馬場にも拘わらず、フィジカル面で圧倒的な強さを誇示くれました。
また、ボールに対する動き出しの早さ、それだけに留まらず、味方のスペースを作ったり、
日本のスペースを潰す為に、ボールのないところでどの様に動くのかということでも、洗
練されたプレーも見せつけてくれました。そして完膚なきまでに「実力の差」をピッチで
表現してくれました。
 日本はフラット3の弱点(横からの揺さぶりに対する弱さ、深い位置から飛び出した相
手に広いDF間をを破られる)をさらけ出し、自慢のパスワークも寸断され、まだまだ甘
さが残っていることを知らされました。


 日本代表はアジアチャンピオンになった事、モロッコでもフランス代表と良い闘いを繰
り広げたのは事実です。しかしあの頃のトルシェは自分のメソットを選手に伝え、チーム
がオートマティックに機能することを教えていただけに過ぎません。相手ありきより自分
ありきのサッカーでした。そして選手も自分達のサッカーを掴んだところだったのです。

 しかしサッカーは相手あってこそです。己を知って、相手を知らば百戦危うからずなわ
けで、強豪国の真の実力を知らなければ、まだまだ世界トップレベルの国と互角に闘える
ところに至っているとは言えないのではないでしょうか。 あの時点で「世界最高水準の
国とも互角にやれる」と思い始めてしまったら、そこで成長がストップしてしまうところ
でした。


 選手は相当なショックを受け、自信を喪失したのは言うまでもありませんでした。しか
しそれは小さな失望に他ならないと思います。W杯までの残された時間で、「今の自分に
足りない部分は何か。今後、何をしなければならないか」、体感して改めて目標設定し直
すという大きなチャンスを手にすることが出来たのです。
 それに日本代表のメンバーはしょげ返るだけではなく、それぞれの目標に向って歩み出
す力も備わっているのですもの。

 98年のW杯前、FIFAランキングのトップ10に入りながら、本当の世界との差を解る
術がなかったあの頃よりも、遥かにいい環境にいると思うのです。


 明日の早朝はスペイン戦です。フランス戦での問題点が、今回少しでも解消していれば
OKだと考えています。まだまだ強豪国との闘いは続きます。その成果をコリア・ジャパ
ンW杯で披露出来ればいいのです。いや、今後も長く続く日本サッカーの歴史の中で、会
得した物が活かされていけば…

 さあ今回は、スペイン産のワインを飲んでも、立っている余力を残しておこうね。