トルシェジャパン初出場選手達の通信簿

                                   砂畑 恵

 スポーツ新聞を広げる人を横目に、私は昨夜からの違和感から抜けれずにいた。新聞に
は「左サイドアウトは三都主で決まり」といった賞賛の文字が踊る。前夜のウクライナ戦
を伝えるニュースも同じだった。だが三都主の活躍を彩る言葉とは違い、映像は正直だ。
カメラは三都主のCKとFKを映したが、ドリブルシーンは相手のブロックでボールがゴ
ールラインを割ったものを取り上げるに留まったからだ。

 前半24分の得点は、ショートコーナーから三都主が上げたクロスを逆サイドにいた中田
浩がヘッドで折り返し、西澤が相手を潰して零れたボールを柳澤が繋いで、戸田が痛快に
決めたものだった。三都主の正確なクロスが得点を呼び込んだのは紛れもない。更に前半
13分のFKは惜しくも外れたが、壁を巻き込んで鋭く曲がった。

 だが三都主に対する人々の期待は、もっと別なところにあったはずだ。三都主のスピー
ドに溢れるドリブルが、どこまで世界に通用するのか…それが私にとっても三都主を評価
する基準でもあった。

 エスパルスでの三都主を見ていれば、得点に絡んだクロスも鋭角なFKも、三都主の実
力ならば出来て当然。ところが小気味よいドリブル突破という点では、エスパルスでのそ
れとは程遠かった。そればかりか守備面はシモチェシュクに三都主の裏へのパスを配給さ
れてピンチになる場面も見受けられ、中田が守備に追われていた。だからこそ三都主を褒
めそやすことに、私は違和感を持ったのだ。

 このウクライナ戦では右アウトサイドの市川にも注目に値する選手である。市川の良さ
は思い切ったオーバーラップと低くて速いクロスだ。2、3度、市川らしいクロスはあっ
たのだが、こちらも思い描いていたよりも代表にプラスとなるプレーを披露したとはいか
なかった。

 ただ三都主と市川を両翼とした今回の布陣で、トップ下に森島を配置するには難しいも
のはあると感じている。森島はパスを配給するというよりも、人に使われてチャンスメイ
クする選手である。しかもボランチも戸田と福西といった対人に強く、繋ぎのパスを得意
とする選手。トップ下の中田やボランチ名波といったボールキープにより二人の攻撃参加
する時間を作りパスを出せる選手と組めば、もっと動きはスムーズになるかもしれない。

 左アウトサイドはタレントが豊富だ。三都主は守備に難を持ち、別のポジションを器用
にこなせるタイプではない。非常に厳しい立場である。起用するのも、残り少ない時間で
点を狙いに行くといった時に、切り札とした方が効果的だろう。

 逆に右アウトサイドは波戸のほか、伊東、明神(ディフェンシブハーフとの兼用)とい
った選手しかおらず層が薄い為、市川の台頭は望まれる。

 ともかく次のポーランド戦は二人にとっての最終テストとなるであろう。ここで結果を
残さなければ代表はない。覚悟してゲームに臨んでもらいたい。

 ところで代表戦に初出場を飾った小笠原は大きな戦力となることを証明した。FWに柳
澤や鈴木、左サイドバックが中田浩といったアントラーズの選手が多いこともあり、彼ら
の特徴を活かすべく伸びのびとした動きを見せている。殊に後半12分の相手ボールをカッ
トし、体勢を崩しても起き直って柳澤へスルーパスを送ったのは圧巻であった。またウク
ライナのカウンター攻撃の際、松田が上っていて、そのカバーに波戸が入っていた場面が
あった。小笠原はファウルでゲームを止め、松田と波戸を本来のポジションに戻る時間を
稼ぐというツボを得たプレーもしている。

 小笠原は中田のようなフィジカル面の強さはないもののプレーは遜色なかった。中田が
パルマで調子を落としている点を考慮すれば、バックアップ選手としての小笠原の登場は
歓迎出来る。

 少し気になったのは、中村とのパス交換があまりなかったこと。左は日本代表にとって
攻撃の生命線ともなる。中村や小野といった左アウトサイド候補の選手とフィットするか、
この点が重要なポイントとなるように思う。