勝てる試合だったベルギーに引き分け…それがW杯

                                   砂畑 恵

 ハーフタイムにしばし激しい胸の鼓動を治める。ベルギー強しの印象が残った前半だっ
た。


 序盤から、ベルギーが日本との体格差にものを言わせて試合を進める。初っぱなに左コ
ーナー付近で、中田を素っ飛ばしたことからも、ベルギーが力で日本を圧倒しようとする
意図が感じられた。中田・小野の二人については、ベルギーも「要警戒人物」と見做し、
ハードな潰しで二人の動きを封じ込める。その効果はてきめんで、日本は攻撃らしい攻撃
が出来ない。

 ベルギーの攻撃に関しては、一言で表現するなら「実直で正確」。ヴィルモッツが多少
下がり目から攻撃にアクセントを加える役目ではないかと予想していたが、もう一人のF
Wベルヘイエンとほぼ並びに位置し、目まぐるしくポジションチェンジを行なう。

 ヴィルモッツに付いては、テクニシャンかと思っていたが、どちらかというと基本に忠
実なプレーヤーで、こちらとしては拍子抜け。だが怖い存在であるには違いなかった。ベ
ルヘイエンは188cmの長身ながら敏しょうで、ボールを受けるポジショニング取りが
上手い。日本DFの中では身体能力の高い松田でさえ、競り合いでは苦戦を強いられる。

 ベルギーはベルヘイエンの頭にボールを集め、ヴィルモッツはシャドーストライカーと
して日本ゴールに迫る。その攻撃を支えるのは、バンヘイデン、ペーテルスといったバッ
クの選手。タイミングよい攻撃参加とアーリークロスの質がなせる賜物だ。

 正直、日本がGK楢崎の活躍で前半をスコアレスドローで乗り切ったのはラッキーだっ
たと言わざるを得ない内容だった。


 前半の日本を振り返って、注意すべきはこの2点だと考えた。「中盤の省略」と「セカ
ンドボールの処理」。

 日本の中盤はベルギーを向こうに回しても、ボールを持てる時間はかなりあった。ただ
足元のパスが多く、人数を掛け過ぎるきらいがある。そこをベルギーに狙い撃ちされボー
ルを失う場面が目立つ。もっと中盤を簡素化しての攻撃は必要に思えた。

 守備について、特にハイボールに日本は苦しんでいた。競り合いで、大男ベルギーに対
し、1度目は何とか凌ぐことが出来る。だがジャンプの段階でかなり無理な体勢になるの
で、降り立った時にボディーバランスの直しに時間がかかる。そこで更にベルギーに繋が
れ、ハイボールを前線に入れられたなら、どうしても不利な状況を産む。セカンドボール
を小まめに拾い、また相手に渡ったならばプレスを掛け、ベルギーに続けて攻撃させない
よう時間を掛けさせることが大事だと感じた。


 ハーフタイムが終り、ピッチに選手が現われた際、鈴木・柳澤のFW2人が中田から指
示を受けていた。中田の手振りを見ていると、「素早くサイドに広がれ」としているよう
だった。後半が始まるとその様相がはっきりする。ロングボールを多用し、ベルギーDF
の裏にFWを走らせる。功を奏し後半10分は日本のペース。

 ところが先取点はベルギーが奪う。後半11分、FKから跳ね返ったボールがバンミール
へ。稲本が寄るが一足遅く、バンミールにゴール前に入れられる。それをヴィルモッツが
オーバーヘッドで日本ゴールに沈めた。

 そのお返しとばかりに日本はすぐに追い付く。後半13分、小野のロングボールに反応し
た鈴木が、緩慢なベルギーDFと上手く体を入れ換え、倒れながらもGKの鼻先でボール
を押し込みゲームを振り出しに戻す。

 その勢いを借りて、尚も日本ペースのゲームは続く。中田がマークがきつい分、虎視眈
眈と攻撃の機会を伺っていた稲本が逆転弾を挙げた。柳澤が相手ボールをカット。そのボ
ールを受けた稲本が、追い縋るベルギーDFひっぱがして豪快なシュートをお見舞いした。
この後半23分のゴールで日本が優位に立つと思われたのだが… 

 逆転されたベルギーは血眼になって攻撃を仕掛けていた時間帯、後半26分に森岡にアク
シデント発生。急遽宮本がピッチに送られた。この交代が日本に微妙に陰をさす。後半
30分、ベルギーの波状攻撃に対処がバタバタとした日本。クリアーボールが短くなり、
拾われたボールをまたもバンミールに前線に送られた。日本はDFラインを上げるも、オ
フサイドトラップをかいくぐって2列目から飛び出したバンヘイデンにゴールを叩き込ま
れた。

 その後は日本、ベルギー共に、審判の不可思議な判定で追加点のチャンスをフイにして
同点のままゲームは終了。最良ではないものの、次の試合に繋ぐ勝ち点1をゲットした。


 個人的には勝てる試合であったと思っている。勝ち点1で留まったことは悔しい思いだ。
けれど、フランスではジャマイカ戦で、負けないだろうと踏んでいた試合に負ける、今日
ように勝てると思われる試合を引き分けで終る。それがW杯かもしれない。

 

ちょいメモ

 森島の交代については、賛否あるようなのだが、森島のような小柄で独特なリズムを持
つドリブラータイプの選手の投入は、身体の大きい選手を揃えるベルギーなどは苦手だ。
こういったプレーヤーを止める為にファウルが増え、日本にとってはFKの機会も増える。
だからさほど悪い選択ではないと考えているのだが、今日の森島のプレーは消極的だった。
後半35分にペナルティーエリアに侵入しながらのミスパス、後半43分のシュートを外した
場面を含め、森島らしくないプレーがあり、かなり心配ではある.