交代が引き起こした混乱を修正出来ず前橋ジュニアユース惜敗

                                  砂畑 恵

 13回目となる全国ユース(U−15)選手権大会の準決勝が、西ヶ丘サッカー場で行
なわれた。この年齢は、サッカー選手としての基礎が固まりつつある年頃に差しかかる。
日本サッカー協会もこの年代の育成には力を注いでおり、15才から上に進むにつれて、
年齢制限付きではあるが国際大会への出場も徐々に増え、世界の扉を開く段階となる。

 晴天ではあるものの、寒風が絶え間なく吹きつけ、ペンを持つ手がかじかむような気温
の中、第2試合のFC前橋ジュニアユースと横浜Fマリノスジュニアユースは闘いの火蓋
を切った(以後、前橋ユース&マリノスユースと表記)


 最初にゲームの流れを掴んだのは前橋ユース。前半8分、相手からボールを奪った石田
が、ドリブルで右に軽く流れてミドルシュートを試みる。放ったボールは右のポストに直
撃し、前橋ユースには惜しいシーンであった。

 マリノスユースが押し込まれたのにはわけがある。フォーメーションは3−5−2。と
は言っても、二人のディフェンシブハーフは中央に構え、左の外に遠藤が張り出す変則な
中盤。その遠藤の役割が重要であった。遠藤サイドからの攻撃を担いながらも、右サイド
バックの飯島が攻撃参加した場合は左サイドバックになり、残りのDFがそれぞれ右にス
ライドする。ところが遠藤が攻撃に上手く絡めない。マリノスユースは右からの攻撃が多
くなった。

 だが前橋ユースの攻撃はマリノスユースの右へ集中。ダイヤモンド型の中盤の左に入っ
た石関が勇敢にドリブルで突っかけ、トップ下の石田が左に流れてチャンスを作る。司令
塔の細貝は、プレッシャーの少ない中盤の底からゲームを作る。4バックは攻撃参加は控
え目にして守備を固めた。

 マリノスユースは、チーム全体が守勢になり、セカンドボールが拾えない。耐えること
に精一杯になったマリノスユースは、中盤を省略し、大きく前線にボールを蹴り込むも、
闇雲では前橋ユースの安定した守備を崩せない。

 伸びのびプレーする前橋ユースが、最大の得点機会を迎えたのは前半21分のことであ
った。寄せ来るマリノス選手二人をフェイントで躱し、長いドリブルの後にゴール前にス
ルーパスを送る。オフサイドをかい潜ったFW野崎がGKと1対1となる。野崎は前に飛
び出したGK飯倉の間合いを計り、その鼻先でボールをプッシュ。転々と転がるボールは
ゴールを捉えるかに見えたが、僅かに左に外れていった。

 ピンチの後にはチャンスあり。マリノスユースに息を吹き返したのは、戦術眼に長けた
トップ下の苅田のプレーだった。右に移動していた苅田は前橋陣内深くからゴール左に向
って、正確なロングボールを配給。前線に上っていたボランチ渡辺はヘッドでゴールを襲
った。GK神保は競り合いの為にゴールを空けている。だがゴールカバーに入った新井が
寸での所でボールを蹴り上げて、GK神保がそれをキャッチした。それでも得点の匂いを
感じたマリノスユースは、前半31分に自らのミスで危ない場面も作りもしたが、次第に
落ち着きを取り戻しながら前半を終えた。


 そして転機が後半立ち上がりに起こる。開始33秒でマリノスユースが得点を挙げた。
自分達のキックオフでゲームが始まり、勢いよく前橋陣内に攻め込んだ。スローインから
素早くボールを繋げ、FW星野にボールを入れる。星野は詰め寄る前橋ユースDFに対し、
一撃で仕留めた。

 この年代のメンタルはころっと変わる。前半は押され通しだったマリノスユースは、得
点により俄然勢い付く。GKが前目にポジションを取っていると見るや、最終ラインから
もゴールを狙ってみるし、ボールの流れもスムーズになる。前半は消えいた小柄なFW堀
内も、右に左にとゴール前のスペースに生きいきして顔を出し始めた。

 そんなマリノスユースに前橋ユースはたじろぐ。それに加え、交代によって中盤を構成
するメンバーがころころ変わったことにも原因があった。この大会は一旦ベンチに退いた
選手の再投入も可能。その利点を活かして選手のリフレッシュを図るのは有効な手段とい
える。とは言っても、監督は同じポジションに入れたりはしなかった。4分、11分、20
分と立て続けに行なわれた交代は、メンバーだけではなく、ポジションも入れ替わる選手
が出てきた為に、選手達はそれを消化しきれないままに、自分達のペースさえ失ってしま
うものだった。

 前橋ユースが自分達のリズムを思い出したのは、後半も29分になった頃。ロスタイム
も含めても正味8分のものだった。そんな中でも後半34分には左からボールを受けた細
貝がドリブルでゴール前に迫り、守りを固めるマリノスユースの選手を引きつけパス。そ
のパスにFW田村が滑り込んで併せたが、ゴールの枠には納まらず。ロスタイムにも前橋
ユースは猛攻を続けたが、焦りからミスも生まれ、最後までゴールネットを揺することは
出来なかった。


 勝ったマリノスユースだが、柔軟性のあるチームに映った。スライドするディフェンス
ラインといい、前半の押し込まれた場面や後半の時間が残り少なくなった場面では、リス
タートの時には5バックにしたりと、守りの戦術が浸透しており、それをこなせる力を身
に付けている。攻撃に関しては、苅田の冷静で視野の広く、且つ正確なプレー振りに感心
させられた。また右の飯島のスピードあるオーバーラップには引き付けられた。

 負けた前橋ユースであるが、個々には光る選手はいた。FW田村と星野は「柔と剛」と
バランスの取れた組み合わせ。細貝のパスセンスとドリブルの巧みさには、目を見張るも
のがあった。石関のドリブルにはワクワクしたし、得点シーンを除けばDF陣の集中も高
かった。特に新井はカバーリングの良さもあり、ロングキックも相手には脅威だったはず
だ。サイドからのセンタリングも正確で速い。私の廻りにいた観戦者からもセンタリング
の質に感嘆の声が上っていたくらいだ。

 問題は経験の違いかもしれない。マリノスユースは常に高いレベルで競り合う相手がい
る。他のJクラブのジュニアユースのチームとも接点があるだろうし、県内には多くのク
ラブも存在する。前橋ユースがこのような大きな大会に出場したこと事態がなかったのだ
から、選手ばかりか監督の経験が浅かったことがゲームに微妙に影響していたように思う。
まずは自分達のサッカーを、いつでも続けられる心を持つことが大切かもしれない。