関東社会人リーグ2部 決定戦 (1月13日県営G)

          図南クラブ1(0前半1)1ザスパ草津
                
(1後半0)
                (0 EX 0)
                (1 PK 3)

図南
鳥居塚
渡辺
山田
小井土
×
×
×
×
ザスパ
生方
浦本

図南クラブ
ザスパ草津

GK

中村  32

小島  22

GK
DF

渡辺   3

籾谷   2

DF

小井土  4

小田島  3

川田  19

奥野  31

沢田秀 25

生方  30

MF
MF

五十嵐  2

浦本  20

贄田  14

高須  10

鳥居塚 10

小林   7

三浦  27

寺田  18

塚越  13

宮川  13

FW

森   22

梁   33

交代 67分

13→二井 15

13→堺 11

交代 81分

   82分

27→山田 23

             身も心も削りあった激闘

                                   砂畑 恵

 PK戦にもつれ込んだことについて記者から質問が及び、ザスパ草津のゴールを守った
小島は、「僕がなにもしないでも、(キッカー)みんなが決めてくれれば…実際、僕はな
にもしてないですから」と静かな口調で素直な感想を語った。なにもしていないという言
葉通りで、先行となった図南クラブは、キッカー4人のうち3人が自ずから崩れていった
のだった。

 図南クラブもザスパ草津も共にJリーグ入りを最終目標を掲げる。両チームにとって、
関東社会人リーグ2部入りはJに辿り着く道にある最初の関門だった。図南クラブはなん
としても扉の内に残留せねばならず、ザスパ草津は相手を倒してのし上がるしかない。J
へ続く夢を紡ぎ続ける為の、身も心をも削る闘いとなる。


 試合はザスパ草津の攻勢で始まる。それは頭から相手をねじ伏せるが如く、一気呵成に
行なわれた。自陣に篭められた図南クラブは、押しつぶされまいと辛抱を重ね、その攻撃
をロングボールを蹴って跳ね返す。ザスパ草津の猛攻が止み、ゲームに落ち着きが戻って
きたのは開始10分のことだった。

 一つの山を越えたところで、図南クラブも徐々に攻撃モードに入る。前半16分に得たF
Kを切っ掛けに、前半17分には五十嵐が初シュート。同分、GK小島の位置が高いと見る
や、鳥居塚がロングシュートでゴールを狙った。更に前半19分には、味方GK中村のキッ
クを追った塚越が、ゴールライン際で相手DFを躱してクロス。中央に控えた森がヘッド
で逸らしたところに鳥居塚が飛び込むが、間一髪GK小島がキャッチする。

 対するザスパ草津も、前半20分に高須が図南ボールをカットしてゴール前に迫る。シュ
ートは惜しくも右に切れていったが、これが呼び水になって再びザスパ草津の攻撃に拍車
を掛けた。前半24分、26分と梁がシュートし、図南ゴールを脅かす。ゴールに至らない
も、フィニッシュまで持ち込んだことで得た感触。梁のブレイクはもうそこまでやってき
ていた。3分後の前半29分、寺田のクロスをDFに競り勝った宮川が梁に落とす。至近距
離にいたGK中村を物ともせず、梁はボールをネットにぶち込んだ。

 先制された図南クラブは、前半の間に同点に追い付こうとすぐに巻き返しを図った。前
半30分にFKから塚越がヘッド。その3分後には森がシュートをお見舞いする。前半43
分にもバックラインから攻撃参加した渡辺のクロスを塚越がマイナスのパスを鳥居塚に送
りシュート。ところがいずれもゴールを揺することは出来ず、前半は終了した。


 前半終わりの流れを受けて、後半最初のチャンスは図南クラブの訪れた。CKを小井土
が落とし、沢田がシュート。一旦はDFに阻まれるも、零れを拾った渡辺が鳥居塚に戻す。
鳥居塚のキックは大きく左に逸れていった。

 この悪い流れを断ち切ろうとザスパ草津の植木総監督は「余計なことはするな。前半と
一緒だぞ」とピッチに声を掛けた。その声にイレブンは自分達のサッカーを取り戻す。シ
ンプルにボールを前に運び、浅くなり始めた図南バックラインの裏を狙った攻撃を展開。
相手の守りの陣形が整っていれば、右サイドはスピードのある小林の突破、左サイドは浦
本、生方はポジションチェンジを交えながらワイドに開き、FWと絡んで崩しにかかった。
その作戦は幾度も図南クラブをピンチに晒した。

 そのザスパ草津の前に立ちはだかったのは、初めて公式戦でゴールマウスを守ったGK
中村だった。後半13分のFK、直接狙った浦本シュートをナイスセーブで凌ぎ、後半20
分にはゴールエリアを飛び出し、DFの裏を取った生方より先にボールを触って難を逃れ
る。また後半29分にはオフサイドを潜り抜けた梁と1対1の場面を迎えるが、相手の前
でボールをキャッチした。マークの受け渡しが曖昧になって、ギリギリのところで耐える
DFを、中村はそのプレーで鼓舞。チーム一丸となった図南の牙城は強固になっていった。

 図南攻略に手を焼くザスパ草津は、残り15分を過ぎた頃から攻撃の手を緩めた。追加点
を奪うことよりも、1−0のスコアーで逃げ切ろうという気持ちが強くなっていった。チ
ーム全体が引き気味になって、前線のボールを放り込むだけになる。

 そのことは図南クラブには幸いした。1点のビハインドを負っているにも拘わらず、守
りに専念するばかりで、後半立ち上がりのチャンス以来この時間帯まで、攻めらしい攻め
は全く出来なかった。しかし守備の意識を強く持ち始めたザスパのお蔭で、ボールポゼッ
ションが回復の兆しを見せ始めた。パスが廻り出すと、攻める気概も生まれる。そんな中、
後半39分に図南クラブにFKの機会が与えられた。自陣ハーフやや左。渡辺の蹴ったボー
ルをフォアにいた小井土がヘッドで中央へ折り返す。そのボールを森が豪快にザスパゴー
ルに蹴り込んだ。しかも図南クラブにとっては後半のファーストシュートだったのだ。そ
の後は両チームは、1度ずつあった決定的なシーンで決められず、90分を終えて延長戦に
突入した。


 歓喜と落胆が交差するスタジアムは、俄然ヒートアップした。それまで以上の歓声と溜
息が観客から巻き起こる。延長前半30秒の図南クラブの攻撃。途中出場の二井が右サイド
を駆け上ってクロスをGK小島が弾く。そのボールに詰めていた森のシュートをGK小島
がセーブ。ザスパ草津も負けじと、延長前半8分に右サイドを突破した小林がDFを躱し
てグランダーのパス。GK中村と味方DFが重なるようになりあわやオウンゴールかと思
えたが、奇跡的にボールはクロスバーを越えた。続く延長後半19秒にはザスパ草津の梁の
振り向き様のシュートをGK中村がどうにか手に当てCKに逃れた。後半13分図南クラブ
の攻撃においては、五十嵐のクロスに鳥居塚がタメを作りながら、逆サイドでフリーの森
へ。森のヘディングシュートはゴールネットを揺らしたが、半身オフサイドで認められず。
120分の攻防はPK戦に委ねられた。

 延長戦まで渡り合った両チームにとって、チームの命運を担う一蹴り。もう体力も気力
も底を尽きていた。もし両チームに残されたものがあったとしたら、ザスパ草津に僅かば
かり多く運が残されていたのかもしれない。そう言いたくなるほど、群馬県サッカー史に
残る好ゲームであった。