全国高校サッカー選手権県決勝トーナメント準々決勝

               前橋東vs桐生第一
            (3−4−1−2)         (中盤がスクエアーの4−4−2)
                                 (後半は中盤がややダイヤモンド型に近くなる)
                        

                                   砂畑 恵

 両校ともFWに大型ストライカーを擁する。しかも二人の背負うナンバーは10番。こ
のナンバー10対決を左右したのは、グラウンドに吹き荒れた風だった。

 前橋東の10番吉武は柔らかさが武器。対する桐生第一の10番百瀬は力で押すオーソ
ドックスなタイプ。

 ゲーム開始1分、いきなり百瀬が牙を剥いた。DFのパスをカットすると、単独でペナ
ルティーエリアに侵入。DFの寄せを物ともせずにシュートを放ったが、ゴール左に逸れ
る。前半10にも重厚なドリブルからシュートまで持ち込むが、GKにキャッチされた。

 吉武も負けてはいない。前半12分、お返しとばかりに相手DFのミスパスを拾い、右
サイドを駆け上る。対応に来た選手を切り返しでかわしシュート。桐生はなんとかタッチ
ラインに逃れた。

 吉武のファーストシュートの後は、前橋東ペースになる。だが前日に機能していた船津
・堀越コンビネーションは影を潜める。右アウトサイドの堀越は、百瀬を警戒していたの
か自陣深い位置にポジションを取っていた。スピードで押す堀越は前目にいることで威力
となる。これでは攻撃参加するのには距離が有りすぎた。堀越も桐生第一の吉田・広沢に
動きを封じられる。吉田と広沢の二人は、お互いの動きを確認しながら、堀越のマークを
受け渡しする。前橋東は桐生第一の守りに、遠めからのシュートで終る場面が多くなった。

 膠着した前橋東の攻撃。この状況を打破したのは、やはり吉武であった。縦パスを受け
た吉武は左サイドから攻め上った。DF3人は、動きを止めようとして吉武を囲む。する
と吉武はあざ笑うようにマイナスのパス。中にはフリーになった堀越。待ってましたとば
かりに堀越のミドルシュートが炸裂し、前橋東は前半28分に先制点を挙げた。

 先制点を奪われたことで、ゲームから消えていた百瀬に火が点いた。前半34分、右サ
イドを突破した百瀬が中央に折り返す。そのボールを広沢がボレーシュート。GKの攻守
に阻まれ得点には至らなかった。これによりゲームの流れは桐生第一に傾いたが、チャン
スを活かせず前半が終了した。


 後半になるとグラウンドには風が巻くように吹く。風上に攻める桐生第一の縦へのボー
ルは風に煽られ戻される。桐生第一は攻撃のオプションが少ない。ある意味、百瀬への縦
パスが生命線だった。ところが百瀬頼みの攻撃を風が妨害した形となった。

 風下に攻めているはずの前橋東のボールさえブーメランのように曲がるあり様。前橋東
はそれを逆手に取って強い味方とした。早く同点に追い付きたい桐生第一はディフェンス
ラインを浅くしていた。前橋東はその裏を狙って足の長いボールを蹴り込む。風の影響を
受けて戻り気味になるボールが、オフサイドラインから飛び出す選手の足もとに入り易く
なったのだ。後半17分の得点はまさにそれだった。桐生第一のFKを前橋東の選手が大
きく跳ね返した。風になびいたボールは、オフサイドラインを抜け出た吉武に納まる。ぶ
っちぎりで進む吉武を阻むものはなく、豪快なシュートで2点目をゲット。後半20分の
ゴールもDFの背後を突いた吉武が、ドリブルでGKを抜いてシュート。カバーに入った
DFが掻き出すも、そのボールを須田に決められた。

 桐生第一は後半28分に右サイドバック田中の攻撃参加から惜しい場面を迎えたが、決
めることが叶わず、3点差のまま刻々と時間ばかりが過ぎていく。けれど百瀬が最後の意
地を見せた。後半35分、百瀬の突破からPKのチャンスを掴んだ。しかし吉田のPKは
僅かに左に逸れてゴールネットを揺るがすことは出来なかった。

 前橋東は後半36分には4点目を挙げ、ストライカー対決の様相を呈した試合は吉武の
勝利に終った。


 負けてしまった桐生第一ではあるが、百瀬の活躍は立派だった。しかし攻撃の比重が百
瀬の肩にかかり過ぎていたもの事実。3年生の百瀬は卒業してしまう。これから先、ワン
パターンに陥った攻撃のバリエーションをどう広げていくかが大切だろう。

 勝った前橋東だが、後半22分で吉武が動けなくなり交代した。どうも吉武にアクシデ
ントが発生した模様。怪我の状況は解らないが、吉武は前橋東の得点源でもあり、次ぎの
ゲームに出場可能なのかが心配される。もしもの場合、吉武の穴を他の選手が埋められる
か、今後の闘いの重要なポイントとなるだろう。