第81回全国高校サッカー選手権 群馬県大会 決勝(太田運動公園サッカー場)
前橋商業vs高崎経済大学附属

前橋商業
高崎経済大附属

GK1  清水

GK12 遠間

DF8  山田(博)

DF20 瀬下

  4  山田(裕)

  22 木村

  5  唐沢

  5  清水(裕)

  10  飯島

  4  清水(宏)

  15  山口

MF8  今井

MF13  高坂

  21 青木

  17  矢内

  11 岩沼

  11  小島

  7  森

  20  大塚

  10 石原

交代
交代

17→7 戸部(58)

4→19 中島翔(70)

14→18 吉田(73)

                              Text by 砂畑恵

 試合開始15分前に高崎経済大学附属(以下高経)の選手の面々は、決勝戦に臨む逸る心
を押え切れないかのように、早目に円陣を組んだ。
 高経の前進は女子校であり、平成6年に男女共学となった経緯から、サッカー部の歴史
は浅い。だがこの2、3年に限って言うと、県内の様々な大会で、4強に入ってくる実力
校の1つに数えられ始めている。
 今大会の決勝トーナメント3試合で、いづれの試合も相手に3点差を付け、安定した闘
い振りでここまで勝ち上がっている。

 その高経に遅れること5分、前橋商業(以下前商)の選手達は、ゆったりとした足取り
でピッチに登場。長めに声を掛け合い円陣を解いた。
 前商は前橋育英(以下育英)と並び、県高校サッカー2強と言われる強豪である。この
両校のどちらかが、県代表として全国大会に出場するという状態がここ10年続いている。
だがこと全国大会に於ての成績は前商が育英の後塵を拝する結果となっている(前商は最
高3回戦、育英は3度準決勝まで進出)。
 前商の決勝までの経緯は、こちらも安定した闘い振りで勝ち上がり、準決勝では宿敵・
育英を1−0で破って今日の決勝に駒を進めた。

 審判団の後に続いて入場する両校の姿に、私の隣にいたサッカー少年は「カッコいい…」
と憧れの眼差しをピッチに向けた。何しろこの試合の前座試合としてミルクカップという
少年サッカー大会があり、大人だけではなく多くの子供達も観戦している。入場者数は約
1500人。風もなく、穏やかな日の光がスタジアムに降り注いでいた。

 高経のキックオフで始まった試合は、どちらも慎重な入りだった。
 高経は1トップで2列目がフラットに近い4−2−3−1。対する前商は独特な3−3−
3−1。常時FW1枚を前線に張らせ、攻撃に乗じて3トップ&中盤をダイヤモンド型に
と様変わりする。
 
 相手出方を試すジャブの様なシュートを放つ前商と、硬さも見られ1トップ・石原だけ
が前線で孤立する高経という流れは、前半15分に得たFKから高経のペースになっていく。
 もともと高経は中盤で攻めのリズムを作りながら、ゴール前では個人技で押していくタ
イプのチームで、ボランチの今井・青木が上手くボールに絡みだした結果、攻撃に躍動感
が生まれるてきたのだ。
 前半25分には青木のロビングボールを石原が頭で落とし、森が胸トラップシュートを打
つ。ボールの勢いがやや弱く、GKの正面を突いてゴールには至らないが、気持ちもほぐ
れたのか高経らしいプレーが出来てきたようだ。続く前半30分には今井のパスを、走り込
んだ清水がセンタリング。フォアにフリーでいた森に届くがトラップミスでゴールライン
を割った。この後も高経は2度ほどチャンスを掴むのだが、大事な場面で細かなミスを犯
して、前半終了まで攻撃のリズムに乗り切れなかった。

 その間の前商は、相手のミスと手堅い守備で得点を許すことはなかった。ただ反撃に出
る糸口を見付けられなかったとも見受けられた。幾ら堅守といえども、守りの姿勢だけで
は相手に勝つことは出来ない。どこで攻撃モードにスイッチを入れるか、前商にとって肝
心なことだった。選手に攻撃スイッチ「ON」の切っ掛けを与えたのは、ハーフタイムの奈
良監督の言葉にあった。「ハートの強い者が勝つ」。

 後半になると前商は攻撃モード全開だった。前半は守備でのカバー能力を発揮していた
ボランチ飯島が、攻めに転じて積極的にゲームをコントロールする。タッチライン際を駆
け上る福田や高坂にボールを振り、サイドから高経に揺すぶりを仕掛ける。
 後半16分には高坂のクロスを受けた福田が、中央の大塚に流す。大塚はガッチリ塞がれ
た前方へ無理向かず、フォローに来た高坂へボールを戻す。高坂のシュートはGK遠間の
ナイスセーブに合い阻止されたが、前商がゴールに迫る予感は秘めていた。

 後半20分近くまで、連続して襲いかかる前商の攻撃を耐えた高経も、ここで反撃を開始
しする。急激な反発が、チーム守備バランスを崩すこととなった。
 後半29分、スローインを受けた小島が間を置かずアーリクロスを入れた。大塚に集中す
る高経DFの間隙を縫うように後方から福田が飛び込み、滑りながら足を併せゴールを決
めた。

 残り10分となり、無理な攻撃にはいかない前商の前に、高経は選手交代で流れを変えよ
うとするもゲームは膠着状態に陥る。焦る高経の前に2分のロスタイム表示が突き付けら
れた。前掛かりになるしかなかった高経に、魔の時間が訪れた。前商にボールが渡り、守
備に戻ろうとした一瞬、足が止まってしまった。高坂がドリブルで一気にゴール前へボー
ルを運び、シュートまで持っていった。GK遠間が1度は弾くも、高坂と平走していた逆
サイドの福田がリバウンドボールをゴールに叩き込み、全国大会の切符を完全に掌中に納
めた。


 前商について

 2月の新人戦からこの大会まで3度、前商の試合を見る機会があった。メンバー構成は
いずれの試合も今日の試合とは若干違うのではあろうが、早春に見た時には潜在能力の高
さは感じるものの、チームの完成度はお世辞にもいいとは言えなかった。それが守りを重
視することをベースに、徹底したサイド攻撃を仕掛けるチームに徐々に変貌する様子を目
の当たりにし、その成長振りを感じてきた。
 試合の流れを敏感に察知し、攻守の減り張りがついてきたことも、これからの全国大会
に向けて前商の多きな武器となっていくことと思う。殊に、キャプテンの飯島のゲームコ
ントロール力は、試合に於けるチームの方向性を指し示す羅針盤のような役割になると思
われる。
 ただ気になったことは、セットプレー時のマークが甘くなること。特にフォアにいる選
手に対してのマークが甘く、この試合でもフリーしている場面が見かけられた。セットプ
レーの際は、お互いが声を掛け合い、マークの確認を怠らないようにしてもらえればと思
う。


 高経について

 新人戦の頃には、既にチーム戦術が浸透している印象を受けた高経。今日の決勝では、
浸透していたチーム戦術がより深みを増していた印象を受けた。
 新人戦では、私のメモによるとGKに安定感が低いと書かれていた。同一の選手かどう
かは不明だが、少なくとも今日のGKであった遠間は、最後尾からチームをもり立てるい
いプレーを披露してくれた。
 今日のゲームを分けたのは技術面よりも勝負所での目利きの差ではなかったかと思う。
流れを掴んでいたはずの前半、ここぞというシーンでの小さなミスが結果的には大きかっ
たのではないだろうか。その点で、前商には伝統に裏打ちされたような抜け目なさを感じ
た。
 試合後、全力を尽くしたという笑顔でも、かといって涙をみせるでもなかった高経の選
手達。各々の顔には悔しさだけが滲んでいたように思え、そこに何故か私はチームの可能
性を感じた。今日の試合で感じた悔しさが、きっと足りなかった経験の差を埋める大きな
糧になるはずだと思う。