第81回全国高校サッカー選手権 (会場 三ツ沢競技場)

          前橋商業1(0‐1)3桐蔭学園
                     (1‐2)

              涙の意味を噛み締めて

                                   砂畑 恵

 試合終了の笛と共に、前商のGK清水は崩れ落ちるように芝へ顔を埋めた。関東一円を
覆った冬将軍は、清水を容赦なく打ちのめしていた。傍らいた副審が清水の肩に手を回し
抱き起こした。

 最初に得点を挙げたのは桐蔭。前半28分のカウンター攻撃。松永が前商陣内をドリブル
で滑り抜け、ボールを阿部に預けた。ゴール方向を向いた阿部は、前を塞ぐ前商DF2人
と微妙な距離を保ちながら、突っ掛けると見せて、アウトで外に駆け上っていた松永にリ
ターンパスを出し、そのままゴール中央に駆ける。松永はマークのついた阿部を囮りとし、
警戒の緩いフォアにクロス。DFの背後をするすると走る渡辺が頭から突っ込んだ。

 先制点こそ奪われはしたものの、前商が好調であることはそのプレー振りから伺い知れ
た。特に前の試合に攻撃参加が足りなかった小島と福田が積極的な攻撃姿勢を見せ、3列
目からも高坂・角田が、前のポジションの小島・福田と入れ換わり前線に飛び出した。前
半19分にはFKからヘディングでクロスバー強襲のシュートをお見舞いしている。更に後
半12分には、CKから山田裕が低い体勢で至近距離のヘッドを放ったが、GK長谷川のス
ーパープレーで惜しくも同点とすることが出来なかった。それでも攻めの面ではチャンス
も多く、決して桐蔭に引けを取ってはいない。守っても高い位置からチェックを小まめに
行ない、阿部がボールを持つと3人掛かりで襲いかかった。そのことに対し、阿部は前商
の厳しいチェックに仕事が出来なかったと話している。少なくとも今シーズン、私が見た
試合の中でもベストと言える内容だった。

 試合開始には降りかかっていた小雪も前半途中で止みはしたが、選手達をより一層に凍
て付かせた。常に動いているフィールドプレーヤーとは違い、GKにとってコンディショ
ンを保つのは難しい。そんな気候もあって前商GK清水は痛恨のミスを犯した。後半26分、
桐蔭のFK。高く蹴り上げられた何の変哲もないボールで、清水自身も桐蔭の選手と競り
合っているわけでもない。誰もが清水の手の内に収まるものだと考えた。だが清水の身体
は硬直し、一旦は手にしたはずのボールを零して、そこを阿部に押し込まれた。

 2点差となったところで桐蔭は守りに入り、前商が怒涛の攻めとなる。そして後半33分
には福田のアーリクロスを小島が相手ゴールに叩き込んで追い縋った。勢い付く前商が同
点になる為に残された時間は7分。ディフェンスのリスクを負っても攻めに出るしかなか
った。桐蔭が苦し紛れにクリアーしたボールを一人前線にいた阿部が、DF唐沢と競りな
がら迫る。GK清水はゴールエリアから出て、誰よりも早くボールに追い付いた。その判
断は正しい。ところが前線に放り込もうと清水の蹴ったボールはミスキックとなり、こと
もあろうか阿部の身体に当たり最悪の状況に。あざ笑うかのようにボールを運ぶ阿部に、
清水はもうなす術はなかった。阿部はゴールカバーに入ったDFの位置を確認し冷静にゴ
ールを決めた。

 庇い立てはしない。敗戦責任の大方は清水にある。それでも清水のサッカー人生は続く。
しかもまだ2年生じゃないか。桐蔭の阿部はインタビューをこの言葉で締めた。「いろん
な人の想いを背負っている。それに応えたい」。その言葉を借りれば、清水が背負う想い
は一緒に闘った先輩の分だけ大きくなった。誰かの想いを遂げることは、自分の願望を果
すより遥かに難しい。清水にはあえてそれに立ち向かって欲しい。挫折したままで終れな
い、涙を流す意味はそこにある。