■行政区域を越えた文化・経済圏構想の連携を
なぜ、このような施策が必要であるかと感じて行動を起こしたかは、今から20年前、小生が公営企業榛名町観光事業「榛名湖温泉ゆうすげ元湯」に勤務した経験からだ。この榛名町を世に売り出すためには行政区域を越え、榛名山麓を一体化させた文化・経済圏構想に基づく連携した取り組みをなくしては、この地域は衰退化し埋没してしまうのではないかという危機感から発したのである。
その後、町の企画課に異動し、この地域の社会的ステータスの向上を図るためには、先駆け的にこの広域連携に取り組むことが重要かつ喫緊なる課題ととらえ、当時、小渕内閣が「地域戦略プラン」を重大政策として打ち出したのを踏まえ、それに乗るべく県、山麓十市町村と協議を重ね、(財)地方自治研究機構に調査を依頼し、「山麓地域の広域的連携による地域活性化方策に関する調査研究」を行った。
■調査研究の目的と概要
今日、自治体における地域連携や広域的連携と呼ばれるネットワーク化は、地域活性化方策において重要な位置を占めている。特に、新たな活性化シーズの創造や機能連携による施策効果の向上などに有効とされている。こうした点に着目し、榛名山麓を構成する自治体においても広域的連携に対する認識が高まってきている。
群馬県のシンボルである榛名山は上毛三山の一つで、麓を取り囲む市街地から標高1,500メートルの山頂まで多様な土地利用がなされており、山麓を構成する10市町村にとって貴重な地域資源となっている。同山麓はこれまで、伊香保温泉や榛名湖などを中心とした県内有数の観光地であるとともに、農林業や製造業などの生産の場、地元の生活や交流の場として利用されており、まさに中山間地としての活性化が期待される地域である。
しかしながら、榛名山麓を構成する数多くの市町村は若者の流出、農林業後継者の不足、高齢化の進行など、さまざまな問題を抱えているのが実情である。加えて農林業の停滞、商工・観光業の伸び悩みなどによって地域の活力が衰えつつある。このような状況に対して、各自治体はそれぞれに将来像を描き、その実現に向けて積極的に各種施策を展開。「フルーツライン」(広域農道)などの交通体系の整備が進められ、これまで以上に広域的な連携に基づく一体的な地域振興策が、地域の発展にとって重要な意味を持っている。
そこで、本調査研究はこのような広域的視点から、榛名山山麓を対象として新たな道路整備などを活用しながら、関係する市町村が相互に連携し、地域間交流を中心として、地域の活性化を図るためのハード、ソフトにわたる諸方策を検討することを目的に実施するものである。
主な検討・調査項目は、1 榛名山麓および構成各市町村の現状と問題点の分析 2 上位計画および関連諸計画などの整理と課題の抽出、榛名山麓の整備課題の明確化 3 山麓開発の長期的な展望および主要事業の基本方針の設定 4 山麓開発・整備構想および個別整備計画の検討 5 短中期的なアクション・プログラムおよび各市町村間の調整・連携システムの検討│など。
この調査研究により、平成10年3月に開催された「榛名山麓サミット」は、広域連携促進の第一ステップ段階のもので、ここでの宣言を受けて翌11年3月には「榛名山麓活性化協議会」が設立され、広域連携基本方針、基本方向、主な計画が決定された。
■事業計画と施策状況
1榛名山麓の景観づくり
県民が慣れ親しんでいる風景の保全・整備を進め、より魅力のある榛名山麓の景観づくりを実現させるべく研究・実践活動を行っている。
2榛名山麓の情報発信とネットワーク
観光や地域交流をより拡充することにより、活力のある山麓地域づくりを目指して、インターネット、ミニFM、山麓ガイドマップなどを利用し、一体的な情報発信による「はるな山麓」ブランドを確立する運動を展開している。
3 グリーンツーリズムの推進
観光と農林業を融合させたグリーンツーリズムを推進し、既存の観光地だけではなく、広く山麓全体を本来のリゾート体験ゾーンとして活かし、併せて停滞北する農林業の振興を目指して、脈々と諸活動を行っている。
4 榛名山カントリーライン
「フルーツライン」整備と活用
フルーツライン(広域農道)は、この連携の根幹を成すメイン事業であるため、山麓全体の環状道路も早期実現を目指しているが、ここにきて連携の動脈的な役割を担うべき、この道路の整備(フルーツラインの当初計画は平成15年度に完成する予定だった)が県において再検討されているとのことである。この道路整備が頓挫するようなことになれば、この地域の再生はない。山麓自治体と地域づくり団体が一丸となって早期完成に向けて、より大きな運動を展開中である。
5 榛名山頂の総合整備
シンボルとして地域住民の共有財産である榛名湖と榛名山を整備し、自然環境を保持しながら楽しめる拠点づくりを進めている。
6 広域バスの共同運行
山麓地域の観光拠点や生活拠点を効率よく結ぶ、広域バスの拡充と共同事業を推進している。
■都市と農山村の交流連携の必要性
ご多分に漏れず、榛名山麓(中山間地域)も農林業の後継者不足、少子高齢化の波が押し寄せており、また遊休農地が増大し、水と緑(森林)の保持・保全にも支障をきたしている状況である。これの打開策の一つとしては、上・下流域の縦軸連携(都市と農山村の交流連携)と、この山麓広域連携による横軸連携が構築されることにより、この地域は保持されると思う。
今年十月に高崎市と榛名町は合併するが、この連携がより重要な役割を担うことになると確信している。高崎市が表玄関として、榛名山麓は奥座敷となり、強靭な布陣を敷くことにより榛名山麓全体の活性化が図れると、新高崎三十四万市民は大きな期待を寄せている。しかし、何よりも大切なことはそこに住んでいる人々が自立し、自助・互助・扶助の三助の精神を持って、地域づくりに奮闘、努力を重ねて活動していくことが一番、必要なことである。
■山麓を官民連携による「食と芸術と癒しの里」に
これまでの日本の社会システムは、歴史的に見ても縦の構図が重要視されてきた。しかし、これからは縦だけでは立ち行かなくなり、横の連携なくしては地域の発展と地域づくりを推進させることは困難である。本来はこれが基本である。今までも「官と民とのパートナーシップ」をもって行わねばと叫ばれてきたが、相互間にギャップがあり、なかなか手間と時間がかかるという現況にある。行政には行政の立場と責任と役割があるが…。官は民(企業、各種団体、NPOなど)がまちづくりのためにどう取り組んで、どう演じてくれるかの舞台づくり、場づくりを提供するシステムを早急に構築することが必要である(それぞれの地域実態と歴史的経緯を見据えながら…)。
小生は小さな自治体に身を置きながら、長い行政の古い?システムと意識の中でどのようにしたら、この地域(榛名山麓)を潤いと活力のある地域にできるかと思考してきた。そしてこの地域をどのようにしたら、次代を担う人たちに正々堂々と引き継いでいかせることができるかが、今後の大きな課題である。
そのために将来を見据え、20年前からいろいろと試行錯誤を繰り返しながら諸活動を展開してきた。そして、地域づくり団体「榛名まちづくりネット」(平成13年度総務大臣表彰を受賞)を十年前に組織し、異業種のネットワークにより、活動趣旨に賛同するNPOをはじめとする各種活動団体の中間支援センター的な役割を担いつつ、フルーツラインの早期完成を目指して、榛名山麓を官民一体の連携による「食と芸術と癒しの里」創造に向け、フルーツライン沿線上に都市と農山村交流・グリーンツーリズムを推進させるための情報発信とコミュニティー施設「夢現庵」(リフレッシュピレッジにするためのモデルハウス)を創設した。榛名山麓サミット宣言を営々と引き継ぎ、地道に研究・実践活動を展開しているのである。「継続は力なり」であるから!