3月「一年間旅をしてきました」
平成12年度、群馬県でもこの研修の制度がスタートすると聞いた時から、「自分の甘さを修正していくためにはこれしかない!!」そう決めていた。2年連続で申し込んではみたものの、お声をかけてはもらえなかった。3年目には、親父の具合が悪くなり、研修どころではないと申し込みを断念。しかし、まだまだあきらめたわけではない。
4年目の研修の申し込みの時期がきた。「以前に申し込んだことがある」ということで、校長から真っ先に声をかけていただき、早速個人調査書を記入した(と言っても、以前に提出したものに少々修正を加えたものだったが)。教員採用試験以来の個人面接にはさすがに緊張し、自分の思いを全て言い尽くすつもりではあったが、最後には完全に支離滅裂状態に陥っていた。
しかし、そこからは何とかトントン拍子に研修への参加が認められ、3月中旬、県庁の公用車に乗り、教育委員会の担当者の方とともに研修先であるNTTさんにご挨拶に伺った。そろそろ春になろうという暖かい日だった。
学校の中では少しはパソコンができるかもしれないが、企業の中では当たり前のレベル(それ以下かもしれない)。特に、配属された法人営業部というところは、企業・自治体にネットワークを提案する部署。趣味程度にパソコンをやっているだけではまったく通用するような場所ではなかった。
しかし、こんな素人に優しくネットワークの基礎から教えて下さり、お客様への提案までやらせていただいた。「こいつにできることを」と配慮して下さり、ボランティアへの参加もさせて下さった。数えられないほどたくさんのことに参加させていただいた。本当に色々な経験をさせていただいた………。
とうとう一年間の旅が終わってしまった。長かった??短かった??
宇宙旅行に行ってきた宇宙飛行士は皆、その人生観を変えるという。今まで見えていなかったものを目の当たりにして、その内面にある価値観が全て塗り替えられた結果なのだろう。
今、自分でも、宇宙旅行にでも行って来たような気持ちである。いいえ、きっと私の場合はそんな大それたものではないと思う。ただ、井の中の蛙が大海を見てきただけのものかもしれない。いずれにしても普通の人では絶対に見ることにできない、"別の世界"を体験してきてしまったのだ。人生観を大きく変えざるを得ないような、本当に素晴らしい体験ばかりの一年間だった。
今思うと短い一年間だったけど、得たものは計り知れない莫大なものがある。そう考えると、ものすごく長い間長い長い道のりを旅してきたような気がする。
時間的なゆとりをもとう
学校で勤務しているときには、「忙しい忙しい……。」常にそんな文句を言いながら仕事をしていたような気がする。しかし、仕事ができる人って、どんなに仕事がたくさんあっても、きちんと自分の時間を確保し、ゆとりを持って仕事に取り組んでいる。そんな人に少しでも近づきたいと思う。いつもよりちょっとだけゆとりのある毎日を過ごさせていただき、そんなゆとりの大切さを感じた。ゆとりがあれば、心優しくなれる。ゆとりがあれば、周りの人への配慮ができる。ゆとりがあれば、新しいことに気がつく。ゆとりがあれば、仕事も楽しくできる。……。本当にいいことばかりの「ゆとり」。時間的なゆとりを持って、精神的にもゆとりの持てる人間になろう。
人的ネットワークを大切にしていこう
学校に勤務している以上、絶対に出会う事がなかったであろうたくさんの方々に出会うことができた。このNTTの方々はもちろんのこと、仕事でおじゃました会社の方々、ボランティアのお仕事でであった方々、同じ長期社会体験研修の研修員の方々、同じ電車に乗り合わせた方々……。本当に色々な方と出会うことができた。
この一年間にであった方々には、本当に色々なことを教えていただいた。人と接する時のノウハウ、人を動かしていくためのテクニック、職場の雰囲気を変えていくための工夫、気持ちを一つにしていく方法、お酒の飲み方からゆとりの時間の作り方……。全て真似はできない。しかし、少しでもそれに近づくことができたらなあと思う。
いいえ、それだけではない。これから出会うであろうたくさんの人とのつながりも大切にすると共に、もっともっと手を広げてたくさんの人々の中に入っていこう。
家族に、妻に感謝
以前から希望していたこの研修に快く(でもないかも)承諾してくれた妻。学校に勤めているときよりゆとりはあるとは言うものの、土曜、日曜に出ることが何度かあり、そのしわ寄せは妻に、家族に行ってしまったと思う。自分だけが楽しい思いをし、宇宙旅行に出かけ(大海を見に行き)自分だけが大きくなったつもりになっている。そんな私を見ていた妻は、もしかしたら、もっと大きなものを見ていたのかもしれない。迷惑をかけてしまった妻にも感謝をし、還元をしていかなければならないと考えている。
学校の職員に感謝
昨年3月。この研修への参加が決定して皆さんに報告した時も、職員の皆さんは快く応援してくださった。月に一度の学校勤務日にも、忙しいながらもこんな私に声をかけてくださった。時々ホームシックにかかり、職場にメールを書くと、忙しいにも関わらずこんな私に返事を書いてくださった。
今回の研修で、初めて外から学校というものを眺めることができた。学校の中では本当に全ての職員が団結して子どもたちの育成にあたっていると感じた。そして、改めて学校の素晴らしさ、楽しさも知ることができた。その環境を作ってくださっている職場のみなさんにも本当に感謝したい。
一年間を振り返って
四月。久しぶりに新調した2着のピカピカの背広と、おろしたての真っ白いワイシャツ。誰が見ても後ろ姿は新入社員。しかし、顔を覗きこんで見ると、白髪混じりに、しわの多い単なるおじさん。電車に乗り合わせた人達は、こんな私をどのように見ていたのだろうか。浪人時代以来の定期・電車通勤に、心までもウキウキわくわくと、まさに新入社員のように見えていたのではないだろうか。外の景色を眺めようと、乗降客の迷惑も顧みず、いつも入り口付近に突っ立って子どものように流れていく景色を眺めていた。そんな電車の中から、一面の菜の花畑が目に入った。白髪混じりの新入社員の目には、その美しさが妙に眩しく感じられた。
初めての出来事に、何もかも珍しそうにきょろきょろと目を動かし、全てのものを見るぞとひとつひとつの出来事に目を向けていた。歩道に敷き詰められたタイルの模様、歩道に植えられた街路樹の変化、まわり中から聞こえてくる大きな騒音から小さな囁きまで……。今振り返ってみると、その頃って、もっともっと、自分のアンテナを高くしていたような気がする。この新鮮な気持ちの中では身の回りのありとあらゆる情報をとり入れようとしていた。
教職20年となると、さすがにそのアンテナも低くなり、感度も悪くなっているようだ。さあ、来年度から教職後期の第一年目として、気持ちも新たにまたアンテナを磨き、調整していこう。そして、子どもたちの活き活きとした活動、変化、言葉、様子を捉え自らも勉強しなおそう。
今、残り少なくなった電車通勤の窓から見ると、ふと、あの時真黄色に菜の花が咲いていた畑に気がついた。その畑も次の新入社員の心をなごますために準備を始めている。この寒い中、一生懸命に一日一日成長させている。
それと共に、学校では「成長出来るように勉強してくるね」と約束した子ども達が待っていてくれる。さあ、新しく生まれ変わった私を見ていただこうではないか。
四月に新調した背広も、一年間着つづけるとさすがによれよれ状態。この背広も、久しぶりにクリーニングに出そう!!
「一年間の長い長い旅で得られたことはこんなことだけかぁ??」そんなふうに思ってしまいますよねえ。しかし、言葉にできない何か、文章では表現できない何かが自分の心の中にどんどん涌き出ている。これからの自分の成長ぶりを見守っていただきたいと思う。この一年間のまとめとして、ここでペンを置こうと思う(この場合なんて表現したらいいのでしょう)。一年間、幼い・つたない・つまらない文章に付き合ってくださった皆様に感謝申し上げます。
2004年3月19日 平成15年度 群馬県長期社会体験研修研修員(研修先:NTT東日本 群馬支店 法人営業部) 黒 岩 晃