1981年 省エネ・カー新記録


クエストエアー・ベンチュアーの記事をさがして、研究所のライブラリーにある、古いラジコン技術の雑誌を めくっていたときに、興味深いものを発見しました。

1981年の海外の燃費競技に関するニュースです。
小さな記事ですが、いろいろと参考になる事が書いてあります。

この年、日本では、ホンダエコノパワー燃費競技全国大会の第一回大会が鈴鹿で開催されており、 この時の記録は292.5km/L だったそうです。

記事の抜粋を書きます。
詳しく知りたい人はバックナンバーを入手してね。
ラジコン技術 電波実験社

ラジコン技術
1981年9月号

塗料をこぼしたようで表紙が赤く汚れていました。
ニュース記事
ガソリン1Lで972km!
  省エネ・カーが新記録


−    オーストラリア/シドニー    −

 オーストラリアの航空エンジニア3人が共同設計した車が、ガソリン1ガロンあたり2747マイルも走った。  メルボルンのB・キャッチポール、N・ポラック、L・トンプソンの3技師と車を運転したC・サンプソン夫人 は省エネ世界新記録を主張している。
 これはオーストラリア・オートレース・クラブが毎年主催するシドニー競技場での省エネ・レースでこの記録が 出たもの。 クラブでは1ガロンあたり何マイル走ったかを記録しているが、この記録はメートル法になおすと 1リットルあたり927kmとなる。
 レースの規則によると、最低14.5kmの距離を35分以内に走ることが条件で、その平均時速は 25km/hである。 過去の最長記録2684マイルを破るため17台の車がこのレースに参加した。
 優勝車は風洞型で繊維ガラス製、3つの車輪とドライバーの体は車体の中。 ドライバーは透明な泡のような 屋根の下に横たわって運転する。 動力は6.5ccのモデル航空機用モーター(エンヤ40級4サイクル・エンジン 〔プロトタイプ〕をイグニッション仕様に改造したもの)、 これで円錐形のフリクションローラーが回り、 その勢いで前輪が回る。 設計者によれば、優勝の秘密は風や地形に合わせてスピードを変えることのできる ローラーと閉鎖式の車体にある。 重さ68kgのこの車を作るのに1年かかったとのこと。


ちょっと分析してみました。



>省エネ世界新記録を主張している。
この記録は正式に認められたのでしょうか?
ファンシーキャロルのホームページで開発目標というのがあって、そこに世界記録の推移が載っていたので、 それを参考にさせてもらうと、 1981年の世界記録は500km/Lくらい (グラフだったので細かく読めなかった)でした。
要するに正式には認めらなかったという事でしょうね。
だとすれば、このニュースを知っている人は少ないから、私が紹介する価値があるって事かな?



>最低14.5kmの距離、平均時速25km/h
ホンダエコノパワー燃費競技では、ツインリンクを5周、または7周走るが(年によって異なる)、5周だと 約11.6km、7周だと約16.4kmになる。
近い値である。 2003年は7周の予定だったけど、雨のため短縮して5周でレースが行われた。
5周の年もあるけど、本来は7周で記録をとりたいのでしょう。
ツインリンクを6周で計算すると約14.0kmで微妙に14.5kmに足りない。
14.5kmを超える7周でレースをしたいけど、運営上7周をあきらめちゃうと、半端な6周でなくて、競技 時間がもっと短くなる5周ってかんじなのかしら?
平均速度25km/h以上というのは全く同じ。
基本的には同じ基準ですね。
私は始めたばかりなので、レース距離に関する本当の経緯は知りませんが。



>1リットルあたり927km
ホンダエコノパワー全国大会の記録の推移と比較したグラフを描いてみました。
日本でも割とすぐに追いついちゃっていますね。
オーストラリアでは出場台数17台と少な目なのに対し、ホンダエコノパワー全国ではどのくらいの参加が あったのでしょうか。 1990年には200チームを超えたそうですけど。
大会が活発なので記録はぐんぐん伸びてます。
記録比較グラフ



>ドライバーは透明な泡のような屋根の下に・・・
ブロー成形の成形体の事を英語では ”bubble” と表現するらしいので、直訳そのもの。
この車両の形は、 ZDP のミラクルでんちくん に似てます。
このキャノピーいいですよね。 ウチもやろうと思って試したら、うまくできませんでした。  いろいろと道具を揃えないとダメです。
こんなに大きなブロー成形ができる技術があるなら、このデザインが王道って感じはします。
この写真を発見したとき、思わず 「 おっ ミラクルでんちくんだ! 」と言ってしまったけど、 ミラクルでんちくんに較べるとこっちの方がかなりデカイ。
よく見ると、大きめの車輪の上側にさらに十分な空間がある
ちょっと膨らませ過ぎじゃありませんか?
最近のWEMの車両の設計はもっとシビアですよね。
拡大写真



>円錐形のフリクションローラーが回り・・・
これは無段変速機を意味するのでしょう。 風や地形に合わせてスピードを変えることのできるローラー という記述もありますし。
たった6.5ccのエンジンで変速機無しで発進するのも辛い・・・いや、無理かな? 車両重量が68kgでは。
というよりは、この変速機が重いのではないでしょうか。
いくら20年以上昔でも、アルミフレームを使用すればそんなに重くなくできるはず。
ウチのチームの車両は重めで、40kgを超えてるけど、ガソリンのエコランカーでアルミフレームでも30kg 以下のものもあるから、68kgは相当重いです。 40クラスの4ストの模型エンジンは400グラム以下 なので、変速機があるからとしか考えられない。 きっと複雑な構造で重いのでしょう。
前輪を駆動するとの事ですが、良くみるとドライバーの足がかなり高い所にあります。 たぶんエンジンと 変速機が足の下あたりにマウントされているのでしょう。 割と大きいのが



>動力は6.5ccのモデル航空機用モーター
6.5ccの模型エンジンでは、スーパーカブの0.13倍の排気量なので、出力もかなり小さいから、 エンジンはずっと掛けっぱなしではないだろうか。
下り坂ではエンジンを停めてるかもしれないけど、”地形に合わせてスピードを変えることのできるローラー” という記述もあるので、すくなくとも平地と登り坂ではエンジンを掛けていることが推察できる。
たぶん、空気抵抗と転がり抵抗で損失する分の出力を発生しつつ、25km/hで巡航する走り方ではないだろうか。
試しにちょっと計算してみました。
走行抵抗推定 側にいる人の大きさから推定して前面投影面積は0.44m^2くらいで、転がり抵抗はミシュランより大きめにして 3Nとしてみました。
これで計算すると、25km/h巡航するのに必要な出力は、0.053PSです。
では、4ストの6.5ccのエンジンはどのくらいの出力があるのだろうか?
ここで知りたい出力は最高出力ではなくて、もっと回転の低い実用ゾーンです。
エンヤの40クラスの4ストのデータがみつからなかったので、別の方法で推定してみました。
スーパーカブの最高出力が4PSです。 これを0.13倍にして、回転速度別の出力は、トルクカーブが わからないので回転速度に比例するとしました。
もうひとつ、模型エンジンOS40(2スト)の最高出力がわかったので、4ストならばその0.7倍くらいとすると 下の表のようになります。
カブを基準に推定した値では、OS40(2スト)より大きい値になってしまうので、OS40を0.7倍にした 値の方が妥当なようです。
それぞれの値はスロットル全開なので、エンジンを掛けたまま走り続けるなら、ハーフスロットルにして3000rpm から4000rpmくらいと考えるとまあまあの余裕度があります。
25km/hでの必要動力は0.053PSで、3000rpmでの全開出力が0.158PSだから、アクセル を絞って走れば丁度いいところではないでしょうか。
エンジン出力推定
別の見方をすれば、50ccのエンジンで加速と惰行を繰り返すときに、エンジンを掛けている時間の割合が 13%とすれば、排気量が13%のエンジンをかけっぱなしと同等という事です。
でもエンジン掛けっぱなしの場合は25km/hで巡航するのに対し、 加速・惰行だと35km/hとか 40km/hまで加速するので、空気抵抗をたくさん受けるからその分損しています。
だから、排気量13%のエンジンと同等なのは、50CCのエンジンでエンジンを掛けている時間の割合が10 %以下の場合ではないでしょうか。



>優勝の秘密は・・・
優勝の秘密は、小さいエンジンで25km/hで走る。・・・この方法がベストなのでしょうか?
でもファンシー・キャロルは30CCのエンジンで変速機無しです。
上の表に戻って、もう一度考えてみると、50CCのエンジンの出力を排気量に比例して0.13倍にして 比較したら、2ストのOS40より高出力になってしまった。
つまり、排気量が大きいほど効率が良いのでは?
もっとも効率の良いレシプロエンジンは、船舶用の大きいエンジンだというし。
それに排気量が小さい場合に重い変速機が必要になるのでは、タイヤの転がり抵抗が増大してしまいます。
そう考えると、現在一般に行われている、加速して惰行、変速機無しというのはうまい方法なんですね。
いずれにしろ、ホンダエコノパワー燃費競技ではエンヤのエンジンは使えませんけど。



>エンヤ40級4サイクル・エンジン〔プロトタイプ〕
1981年9月号のラジコン技術でENYAエンジンのラインナップをしらべてみましたが、40クラスの 4ストロークはありませんでした。
4ストロークであったのは35クラスの 35−4C というモデルだけです。
スペックは、0.4〜0.45HPとあるだけで、この出力を発生する回転数はわかりません。
たしかに市販モデルのエンジンではなく、プロトタイプのエンジンをベースにして省エネ・カーを作ったのですね。
このエンジンを使って、もし変速機が不要なら、すごく軽いクルマができるよね。
もしかして、車両重量が68kgは翻訳の間違いだったりして・・・?
28kgの車両に40kgのドライバーで、合計68kgってのもあり得る。
それだと変速機が重いって話は間違いになっちゃうけど、その他の話は大体変わらないでしょう。
ENYA35-4C






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