急成長の前商に更なる注文

                                  砂畑 恵

 梅の花が満開を迎え、春めいた陽射しに包まれた群馬県。3月6日〜10日の5日間、
県代表の前橋育英と前橋商業に、選手権優勝校・国見や佐野日大、帝京、桐光といった隣
県有力校が一堂に会してU−18選抜高校SC大会が開催された。結果は国見が優勝を飾
り、以下、育英、前商、佐野日大、帝京、桐光という順位となった。

 諸事情により、私は前商対桐光戦しか試合を見ることが叶わなかったが、前商の闘い振
りにちょっとした衝撃を受け、レポートを残しておこうという気持ちになった。


 前商について、2月2日の新人戦で今年初めての観戦している。詳しい内容は新人戦レ
ポート
に譲るとして、簡潔に言えば前商は、同日見たどの高校よりも完成度が低く、チー
ム作りの立ち遅れが大きな印象として残った。

 ところが1カ月余りで、前商は急成長。メンバー表がないので新人戦と同じ選手がピッ
チに立ったのかは解らないが、その進歩たるや別チームになったのか?と思える程である。

 戦術的にはディフェンシブハーフでボールをキープしてタメを作り、逆サイドに大きな
パスを通してアウトサイドへ。アウトサイドはスピードに乗った縦に突破を計りセンタリ
ング。FWが中で併せる攻撃パターンである。アウトサイドの役割は新人戦と変わりはな
いのだが、大きなサイドチェンジを入れることでアウトサイドの動きが活性化し、新人戦
の頃よりも攻めの輪郭がはっきりしている。

 ボールを受け方も体勢がよくなっており、身体を半身に持っていくことがスムーズにな
っていた。またポジション取りも、ステップワークを上手くこなしてスピードアップして
いる。特にディフェンスラインは安定感が増した。

 声による連携も幾分、改善の兆しがみられた(まだ桐光よりも足りない気はしたが)F
Wは走りながらどこにボールが欲しいかの意志を周りに伝えるようになった。余談だが、
驚いたことに観戦しているご父兄から「声が出てない」と司令が飛び、選手達に強く意識
付けをしている場面もあった。


 チーム力が向上していることは解った。もちろん直していかなければならない問題点も
ある。

 前半終了間近、押し気味にゲームを進めていたものの0−0であったこともあり、失点
をしないことを第一にボールキープを選択した。落ち着いて回せていたし、この点はOK
だった。後半立ち上がり、前半の劣勢を盛り返そうという桐光の攻勢にあう。それを受け
て前商が引き気味になるのは仕方がないし、我慢の時間帯である。ただ前半終了間際の余
裕をなくしたことだ。

 相手のプレスが薄いところがあっても、それが見えなくなってしまった。慌てる場面で
なくても、思案に窮してゴール近くで短いパスを無理やり繋ごうとして、相手にボールを
渡すシーンが目立つ。

 大きく蹴ってボールをタッチラインに出し、ゲームを切ってもいいから、まずはチーム
が落ち着くことを優先することだ。この注文は手厳しいかもしれないが、押し込まれた時
こそ冷静な判断が出来るようになってもらいたい。

 後半20分、前商は桐光に先制点を許した。それと前後して、前商は守りに回っていた
こともあり、前線にロングボールを放り込むだけとなっていた。桐光は得点を挙げた後、
攻撃の手を緩めた。前商はようやく体勢を立て直しパスを繋げるようになっていた。にも
拘わらず、ロングボール一辺倒になっていた攻め方を変更出来なくなっていた。

 相手に得点を奪われ、早い時間帯で追い付きたいのはやまやまだろう。それでも自分達
の攻撃のベースは崩すことはない。前半に見せたサイドチェンジは効果的な攻めを演出し
ていたのであり、緩急を付けた攻めのアクセントでもあった。ところが縦に急ぐあまり、
サイド攻撃が減り、攻撃リズムも1本調子に。

 後半終盤に差しかかり、ようやく前商らしいアウトサイドを使った攻撃パターンを取り
戻し、ロスタイムに同点弾を桐光ゴールに叩き込んだ。

 強いチームになればなる程、厳しい状況に陥っても自分達の型を貫ける。ただその力強
さが前商にはまだ足りない気がする。

 それからFWの動きについて。アウトサイドからのセンタリングに併せるの繰り返しだ
けでは、相手DFのマークにあって跳ね返されるばかりとなる。プル・アウェイの動きも
頻繁に行なってもらいたいし、アウトサイドからボールを引き出して、別のポイントから
攻撃を組立てることも学んで欲しい。

 最後にもう1つ注文を。いずれの選手もボディーシェイプやボールの受け方も向上して
いる。そこから踏み込んで、どこにボールを落とせば次の動きがスムーズになるかを考え
ながら練習してもらいたい。

 例えば後ろからパスが来たとする。フリーでしかもスペースがあれば、足元にボールを
落とすのではなく、多少トラップが大きくなってもいい、自分が前に向きやすいスペース
にボールを落とす。敵がいれば、相手にボールを奪われにくく、且つ自分の狙い通りに動
く為にはどこにボールを置けばいいのかなど、単に足元にきっちり止めるばかりではなく、
状況を考えた上で、次の動きを想定しながらパスを受けるようになってくれたらと思う。