念願のマイクロスコープ
2012年8月末、念願のマイクロスコープ(歯科治療用実体顕微鏡)を導入しました。もちろんだいぶ以前マイクロというものが話題になり始めた頃から気にはしていました。しかし何年前でしょう、医科歯科大学のエンド(歯内療法)の須田教授が伊勢崎でご講演された時、概ね「残念ながら何十年というベテランの先生でも、マイクロを使った卒後2、3年の先生にかなわない」的なことをおっしゃって、非常に衝撃を受けました。
またその前後、東京でエンドの専門医として開業されている澤田先生の講演を聴き、2011年に1泊2日のマイクロエンドの実習を受講しました。そこでさらにマイクロスコープの必要性を痛感し、またできるだけ早く実機を導入しなければ、と思いました。
しかしマイクロスコープの問題点は、値段のこともありますが、何よりも現在の診療体系、診療実態に追加することが可能かということです。つまり、バタバタと忙しくやっている当院の治療の中で、ゆっくり顕微鏡を覗いて治療ができるかどうか、ということです。
須田先生のご講演では、「歯内治療の間じゅうずっと顕微鏡を覗いていなければならないわけではない、必要な時にパッと見て確認するだけでも全く違う」ということでした。まずそれが本当かを確認する目的もあり、いくつかの機種をデモ品としてお借りして使ってみることにしました。
すると意外に現在の治療の流れの中で何とかなる、それどころか非常に有用なものでした。
結局いくつか検討した結果、ライカメディカルシステムズ製のものに決めました。この機種はアームが長いので、うまく2台のユニット(歯科診療椅子)の間に設置すれば、2台のユニットで使用できることが分かったからです。しかしそのおかげで工事は非常に難航しました。
マイクロスコープ使用状況
現在きちんとした根管治療を行うには、マイクロスコープは必須のアイテムだといわれています。それではマイクロスコープは何をするかといえば、要するに「よく見る」ことです。それ以上でもそれ以下でもありません。
そのため、「見えるからといって、開かない根管は開かないでしょう」という先生も多くいらっしゃるし、私もそう思っていました。
ここでまず前提となる話を書きましょう。「根管治療」とは歯の神経の治療のこと。虫歯が進行して歯の中の「歯髄」、いわゆる神経の部分に到達してしまった場合、またさらに進行して「根尖部」すなわち根の先の部分に膿をもってしまった場合、歯髄を除去したり、細菌感染してしまった部分を掃除する治療です。
硬い歯の中にはこの歯髄が入っている「歯髄腔」および「根管」と言われる空洞があります。これは細く狭く、複雑な形をしているため、隅々まで掃除するのは至難の業です。「根管が開く」とは、この歯髄腔を伝って根の先まで器具が到達することであり、根管治療の第一歩です。
しかし根管はもともと細く、曲がっている上に、さらに石灰化や汚染物質、前の治療の残存物などで詰まっていたりします。具体的には非常に細い、さまざまな形をしているドリル類や「ファイル」というハリのような道具、 超音波の器械などを用いて進んでいくのですが、根気と技術を必要とする困難な作業です。
さて、確かにマイクロスコープは「見えるだけ」ですが、実際に使用してみると今まで如何に「見えていなかった」のか、また見えていなかったために如何に「治療ができていなかった」のが、恐ろしいほどわかります。ですから、これまで見えなかったために実際は開けられるのに開かないと思っていた根管がたくさんあることがわかりました。またキレイにしていたつもりなのに汚染物質がどんなに残っていたか、驚くほどわかりました。
なぜこの様によく見えるのかといえば、一つはもちろん見るものを拡大すること、もう一つは根管内にまっすぐ光が入ることです。通常の診療でも今やヘッドルーペは必須になっていますが、顕微鏡の拡大率はずっと大きく、また視野がブレないので明快に見えます。それに加えて狭い歯の中身、更に狭い根管の奥の方を見るには、照明と視野が一致していることが重要です。これはほとんど顕微鏡の独壇場です。
いち保険医で、忙しい日常診療の中でなかなかゆっくりと、顕微鏡下での治療をすることは難しいのですが、今のところどうしても必要なときに「サッと」引き寄せて覗く、というスタイルで活用しています。設置工事は難工事になりましたが、2台のユニット(治療椅子)で使えるように天吊で、アームの長い機種を選定したので、このようなことが可能になりました。
これからは根管治療だけでなく、少しずつ修復治療や歯周治療にも活用していきたいと思っています。