欠損補綴の話 インプラント編

ノーベルガイド

ノーベルクリニシャンの導入

 2012年4月、ノーベルクリニシャンを購入して使い始めました。これは何かというと、インプラントの治療計画をシミュレーションし、埋入手術用のガイド(サージカルテンプレート)を発注するためのソフトウェアです。
 このガイドのシステムを「ノーベルガイド」といいます。ノーベル、というのは「ノーベルバイオケア」のこと、当院で採用しているインプラントのメーカーであり、現在のチタン製骨内インプラントの原型であるブローネマルクシステムを有するメーカーです。

ノーベルガイドとは

 ノーベルガイドについてはネットを紐解けばさまざまなサイトにて動画などで説明されていますが、以下に何とか文章にて説明してみようと思います。
インプラントの治療の目的は、「インプラントを骨に埋めること」ではなく、「インプラントで上手く噛める、あるいは綺麗な歯が入ること」です。そのためには補綴物、つまりインプラントの上に結合する歯の部分が適正な位置にあることが重要で、そのためにはインプラントを適切な位置に埋め込むことが必要です。
 基本的にはもともと歯根があった場所に埋められれば良いわけですが、残念ながら歯を抜いたあとは顎の骨が減っています。さらに上顎では上顎洞、下顎では下顎管に代表される、避けるべき解剖学的構造があります。したがってインプラントの治療計画では、これらの要素に何とか折り合いをつけてインプラントの埋入位置を決めることになります。
 理想的には、最も良い位置に補綴物が設定できるように骨や歯肉の増生手術をおこなってからインプラントを埋め込む、という考え方もあります。前歯などで審美性が高度に要求される部位ではこのような考え方が優先されますが、患者さんはできれば大きな手術は避けたいと考えるでしょう。また、移植や人工物で増生した部分は長い目で見ると結構吸収してしまうということが最近では言われ、もともと骨がある部分を探して埋め込むことがまた見直されているようです。
 この様に「折り合いをつけた」インプラントの埋入位置というのは、3次元的に複雑な方向で、ミリ単位の正確さが要求されます。そのため、目分量で行う手術では解剖学的構造がよく分かるように大きく粘膜を剥がし、歯根や骨の形がわかるようにしてドリリングします。しかしそれでもどうしても「絶対当たって はいけないところ」を避けるために、どうしても浅くなったり残っている歯から離れてしまったりすることが多いようです。

ノーベルガイドを使用したインプラント埋入

 ノーベルガイドでは、まず患者さんの模型上にワックスアップ(ロウで歯の形を作ること)してインプラントによって完成した状態を作ります。それをレジンに置き換え、X線を通さない点状の目印を埋め込み、その装置をはめて患者さんのCTを撮ります。

 

 そしてそれらの画像、すなわち患者さんの骨と完成した歯列の画像をパソコン上のソフトウェアで重ねて、見ながらインプラントの埋入位置などの治療計画を立てます。そして骨を削るドリルの方 向と深さを規定する装置であるサージカルガイドをメーカーに発注します。作られてきたガイドをきちんと口腔内に固定し、手術をすることによって、計画した 位置にドリルで穴を開け、インプラントを埋入することができるのです。

 この様に適切な術式でノーベルガイドを用いれば、計画したとおりにインプラントを埋入することができることになっています。しかしながらこれまで私は、一つは経費がかかること、また実際のオペ時に粘膜を開けてみると骨の形はイメージと随分違うこと、などからノーベルガイドの採用には踏み込めませんでした。
 しかしこれまでの自分のインプラントの手術結果を反省した時、たとえば残存歯の隣のインプラントが歯根に当たることを恐れて残存歯から離れすぎてしまう、下顎管への干渉や下顎舌側への穿孔を恐れるために浅くなってしまう、等と慎重すぎて位置がいま一つの場合が多いようでした。これを解消するために、思い切って費用をかけてガイディッドサージェリーを導入しました。

 実際に症例を重ねた現在の感想は、とにかくオペが早く、すなわち手術時間が短くなりました。今までドリリングをいかに恐る恐るやっていたか、ということが改めてわかりました。そして埋入結果をCTで確認すると、深さについては少しのばらつきがあるものの、ほとんど計画したとおりにできていることもわかりました。
 また術後の腫れや痛みなど患者さんのご負担も非常に軽減されるようです。「フラップレス(粘膜を開かない手術)などはもってのほか」などと思っていたのです が、慎重に使用してみて考えが変わりました。術前の準備は結構大変なのですが、すっかりノーベルガイドのファンになりました。
 もっとも全てが可能なわけではなく、サイナスリフト法を始めとして骨の造成など付加的な手術が必要な場合は簡単には行きません。フラップをきちんと開けて手術を行うことが必要になります。それでもその中あるいはその後のインプラントの埋入に関しては、ガイドを使用してきっちりと位置を決めることが 良いと思います。
 以上の理由から、今後ははできるだけノーベルクリニシャンソフトによるガイドを用いた手術を行いたいと思っています。

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