欠損補綴の話 インプラント編

インプラントに付加する手術-骨を作る-

インプラントに付加する手術

 これまで述べてきたように、インプラント治療は基本的に本体(フィクスチャー)を手術によって骨の中に埋め込み、そこにねじ止めで土台を立てて冠や義歯などの補綴物を支える方法です。条件のよい顎では、もっともシンプルな方法で最短の期間(条件によっては手術当日に)で噛ませる事ができます。
 しかし残念ながら、抜歯に至るまでには重篤な歯周病や膿瘍によって骨が壊されていることが多く、理想的な骨の量、質、形が保たれている場合はむしろまれです。特に日本では国民皆保険の制度によって世界的にも廉価な料金で歯科治療が可能なため、ギリギリまで歯を残すことが普通です。さらにに欧米人に比べてもともと歯を支える骨や歯肉がとても華奢にできている場合が多いようです。したがって、インプラントを行う場合にも一筋縄ではいかない場合が多くあります。

インプラント埋入のための2大障害

 インプラントを埋入するにあたって上顎、下顎それぞれにもっとも問題になる解剖学的構造があります。まず下顎では「下顎管」という太い神経、血管の通る穴です。これは図のように下顎の骨の臼歯の部分の真ん中付近を通っています。歯や歯肉の感覚をつかさどり、途中から骨の外側に開口して口唇などに向かいます。下顎の臼歯部にインプラントを埋める場合は、この管までの距離が限界となります。
 上顎ではやはり臼歯部に、「上顎洞」という骨の中の空洞があります。これは鼻腔(鼻の中)と小さな穴で交通しており、いわゆる蓄膿症のとき膿がたまる空間です。歯を抜いたあとにはこの空洞が大きくなってくることが多く、そこまでの距離がひとつの限界となります。

 骨を作る

 あごの骨は本体の骨と歯槽骨といわれる歯を支える骨からなっています。この歯槽骨は歯を抜くと経時的に吸収(減少)してしまいます。また歯周病やこじれた虫歯を長く患っていると、その間に骨が吸収していきます。
 インプラントが最終的に機能的、審美的に働く(すなわちキチンと噛めて、綺麗に見える)ためには、もともと歯(歯根)があった部分に埋入することが理想です。しかし歯槽骨が吸収していると、それも不可能です。

 このような状態のとき、インプラントを埋入する前にあらかじめ骨を作る、あるいは埋入手術と同時にインプラントの周りに骨を作ることを行います。作らなければならない骨の量、形、患者さんの条件などによりいくつかの方法があります。
 もっとも確実な方法は自家骨移植です。口腔内のほかの部分から骨を切ったり、削ったりして移植します。必要な場所の状況により、ブロック骨といって骨を塊で移植する場合と、砕いた骨を詰め込んで移植する場合があります。移植する骨の量が足りないときは、骨補填剤を用います。これはハイドロキシアパタイトやβ-TCPといった骨を作る燐酸・カルシウムの化合物の顆粒です残念なが今のところ人工物だけで骨を作り上げることは難しいとされ、多くの場合移植骨に混合して用います。

 またもうひとつGBRといわれる方法があります。これは骨に接している部分に他の細胞が入り込まないような膜を用いてスペースを作ることにより、そこに骨を増殖させる方法です。ゴアテックスというテフロンの特殊な膜など、水や栄養分は通すが細胞は遮断する膜を用い、多くの場合スペースを保つために移植骨や補填材を用います。

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