欠損補綴の話 義歯編

部分入れ歯の治療手順

部分入れ歯の治療手順

 それでは具体的に、部分入れ歯の治療手順について説明していきたいと思います。なお、ここでは一般的なクラスプ(歯に懸けるばね)を使った義歯を仮定します。

保存的前処置(残っている歯の治療)

 一般的に部分入れ歯を入れなければならない状況に陥ったということは、これまでの口腔内の環境が悪く、そのために虫歯や歯周病で歯を失ったということです。したがって、現在残っている歯やそれを支える歯周組織の状態にも問題がある場合がほとんどと考えられます。そのため、まず今ある歯で残せる歯と残せない歯を見極め、残す歯を失わないための処置と,もう駄目な歯を抜く処置が必要です。
 具体的にはブラッシング指導や歯石除去をはじめとする歯周治療、虫歯や根の治療、虫歯に対する予防処置などですが、状況によっては非常な時間と手間がかかる場合もあります。
 また患者さんのこれまでの経過や先々の予測、ご年齢や治療に対する希望、等の条件によって、あくまでも総義歯までのつなぎとして悪い状態のままで部分入れ歯を作ることもあります。

補綴的前処置(残っている歯の補綴)

 残すために治療をした歯について、必要な場合は固定性の補綴をします。つまり維持装置(ばね等)が能率よく働くために理想的な形の冠をかぶせたり、維持装置によって力がかかる歯の補強のために連結したりします。
 また、欠損(歯のないところ)が複数個所ある場合、可能な場所は固定性の義歯(ブリッジ)で補綴し、必要なところだけ部分入れ歯を作ることにより、部分入れ歯の形がシンプルになります。
 これらの前処置は部分入れ歯にとって非常に大切で、これが部分入れ歯の性能や予後を左右するといっても過言ではありません。

概形印象とスタディモデル

 前処置の前に作る場合もありますが、口腔内の状態を診査するために型をとって模型を作ります。これにより個々の歯や歯列、歯の並び方、咬み合わせ、欠損の顎、等の状態をよく見て、大まかな設計を考えます。

個人トレー

 多くの場合、このスタディモデルを使い、レジン(アクリル樹脂)で「個人トレー」を作製します。部分入れ歯の場合、歯はできるだけ忠実に、歯の無い顎の部分は形を「作って」、また必要に応じて圧をかけて型を取る必要があります。 そのため、歯の部分は印象材の厚みを確保し、あごの部分は接するようにするため、個人トレーは複雑な形になります。

精密印象と作業模型

 個人トレーに印象材(型取りの材料)を盛って、実際に義歯を作るための型をとります。まずトレーを合わせ、口腔内で運動をさせて削ったり材料を盛り足したりして、周囲の形を決めます。印象材は当院では若干高価ですが基本的にシリコーンラバーを用いています。歯の状態等により(抜けてしまいそうなが場合など)、アルギン酸印象材を用いることもあります。このようにして取った型に石こうを流し込み、作業模型を作ります。これがすべての仕事のもとになる大切な模型です。

咬合採得と咬合器

 咬み合わせを記録する作業です。模型上でレジンにより仮の義歯床を作り、それにワックス(ロウ)などをつけて、患者さんに咬み合わせてもらいます。ワックス等の材料に歯などの圧痕がつき、それを用いて上下の模型の位置関係を再現し、咬合器という顎の運動を再現する道具に模型を装着します。

 部分入れ歯の場合患者さんの上下の歯の残り方により、咬合採得の難しさは全く異なります。残っている歯で咬み合わせがきちんと決まっている場合、これらの仕事も必要なく上下の歯の間に噛み合わせを採る材料を一枚を咬ませるだけで済む場合もあります。しかし残っている歯の数や状態により、装置がずれたり咬み癖が出たりして、むしろ総義歯よりも難しい場合もあります。

技工操作と試適

 ここから本格的な技工の仕事です。
 部分入れ歯の場合、維持装置などのための金属の仕事と、床の部分のためのレジン(合成樹脂、通常はアクリル)の仕事があります。また歯に接する装置は特に精度が必要です。

 通常まず人工歯を仮に並べて患者さんの口の中で歯並びや咬み合わせの可否を確認します。その後金属の構造を作り、最後にそれをレジンの中に埋め込むように作り上げます。金属床義歯や特殊な義歯の場合、ステップの順番が異なったりより多くの段階を踏んで作らなければならない場合もあります。

装着と経過観察

 完成した義歯を口腔内に装着します。
 多くの場合どうしても歯と粘膜の性質の違いによる誤差や、きつさゆるさ、装着方向の違いなどにより、部分的に削ったり咬み合わせやばねの調整が必要です。また患者さんに着け外しの練習もしてもらわなければなりません。

 こうして装着した義歯はその時があくまでも「始め」であって、それ以降できるだけ長い時間良い状態を保たなければなりません。そのため、まず初期の何度かの調整、次いで中期の経過観察、さらに長期の観察がどうしても必要です。基本的に初期の調整が終わってから半年ごとに見せていただきますが、患者さん自身が調子良いと感じていても、ずいぶん合わなくなっている場合もあります。その際は必要に応じて、咬み合わせの調整、維持力の調整やリベース(床の裏側にレジンを足して合わせること)を行います。

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