欠損補綴の話 義歯編

総義歯の作り方 -印象採得-

総義歯の作り方

 さて、前記のように難しい事をやっている総義歯ですが、どのように作っていくのでしょう。というより、どのように作っていったらうまくいくのでしょうか。 作った入れ歯が合わなくて、困っている患者さんが大勢いらっしゃるという現実を踏まえての話です。

 これを考える上でまずひとつ。私たちの業界でよく言われることですが、総義歯に限らずその道の「名人」といわれる先生がいらっしゃいます。またよく「教科書どおりにやったのではダメだ、臨床は全然違う」という先生もいます。
 私自身で名人の腕をつぶさに見た事があるわけではないですが、おそらく「黙って座ればピタリとあたる」ような神秘的に見える技を持つ先生もいらっしゃるのでしょう。しかし私達が行なっているのは「医療」です。ある程度勉強して教科書、マニュアルに沿って施術すればソコソコ合格点の結果が得られなければ「医療」として社会的にあまり意味を持たないと思います。

 しかしまず、果たして多くの先生方がまず「教科書どおり」の事をやっているのでしょうか。義歯は、特に細かい手の動きとか眼の良さ等の精密な事、器用な事が要求されるわけではなく、口の中の解剖学や咬合や材料などの知識が備わっている事が大事なのです。
 その上で、医療には「アート」の部分が欠かせません。義歯の型を取ったり歯を並べたり歯肉の形を作るときに、何となく正しい、おかしいを判断できる眼がなくてはいけない部分があります。これらの一見矛盾する事は、総義歯に限らず歯科医療の特に「補綴」の部分で要求されると思います。

型取り(印象採得)

 何となくお分かりと思いますが、総義歯に限らず何かの補綴物を作るときはまず「型取り」をします。この「型」のことを「印象」、型をとる事を「印象採得」といいます。
 総義歯の印象採得では、歯の無い顎の形をとることになります。歯が無い顎の部分は内部に骨があり、その表面を筋肉や腱、唾液腺と粘膜が覆っています。その一部は骨に固く結びついていますが、外側に移るにしたがって頬や舌の粘膜となり柔らかくて動く様になっています。そのため型を取るといってもとり方によってどのような形にも変わってしまいます。ですから総義歯の場合の印象採得は型を「作る」と言った方がふさわしい作業です。

 実際にはまず普通の型取り材で概形を取ります。この概形から起こした石膏模型をよく見て個人トレーという印象するための「お皿」を作り、それを使って精密印象を取ります。このトレーを実際に口の中に入れ、噛んだり口をすぼめたり舌を出したり運動をさせ、長いところは削り短いところは足して、形を作ります。そこに細かいところまで再現できる型取り材を流して、精密な印象を取るのです。

 この時、ひとつは口腔の機能運動によって動いてしまう部分を避けるように、形を小さくしたい方向があります。もうひとつは義歯と顎との間に空気が入らないで義歯が吸着するように、また噛み合わせの力をできるだけ広く分散させるために、形を大きくしたい方向があります。
 この相反する二つの方向の釣り合う点、妥協点を目指して形を作ることになります。その際に必要なのが我々の解剖学の知識、患者さんの運動の誘導の仕方、そして正しい義歯の形のイメージなのです。

 このようにしてとった印象から、石膏の模型を作ります。これが技工操作で義歯を作っていくベースになります。しかしながら患者さんの顎は柔らかい粘膜でできており、さらに場所によって粘膜の厚みも異なるため硬さもまちまちです。一方、模型は均一に硬い石膏でできています。
 また実際は顎の粘膜は動く部分もあるわけで、形態としてもある一瞬の状態が再現されているにすぎません。この辺が完成した義歯を装着した時に問題となるところのひとつであり、難しいところです。

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